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  • 2015.10.23 Friday
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場末のバービー 

 鋭い寒風に乾燥肌の表皮を裂かれめくられ、メロンパンのようなマンゴーのようなブロック的なボコボコをひゅうひゅうされた新年某日、私は場末のクラブでマイクを握りしめ、隣席のホステスとバービーボーイズ『目をとじておいでよ』を歌っていた。こんなふうにもっと変になっちゃっていい、ブスだったが、思えばあれで精魂果てた。翌晩未明、苛烈な勢いで体温が上昇し、九度を回って医者へ行くとインフルエンザ陽性と出た。タミフルは凄みのある大きさのカプセルで、効きそうな色をしていたが、とにかく薬はたくさん渡されたので、どれが効いたというのはよくわからない。喉に引っかかる頑固さから考えると、クラリス錠の効き目が強そうな気がした。現在は多少引いて七度あたりをうろうろしている。


 譫妄、と書こうにも変換が出ない(マック初期設定)。辞書に載る単語も網羅できないで何が株価いくらいくら。高熱の最中に思ったのは、カルト映画やグロ的な何かを選り好む人々が病んでいると揶揄されるのはぜんぜん正しくない。健康だからこそ楽しむことができる。本格的に高熱にうなされていたら、内臓が肥大するだの胎児が壁に投げつけられて破裂するだのいう映像は観ない。悪夢を助長するばかりだ。


 幼少より高熱にうなされると毎度同じ夢を見る私は今回も例に漏れず、道ばたのオレンジジュースを拾って飲むや巨大な歯車に巻き込まれて破裂する光景を何度も何度もループした。そこに時折挟まってくる映像も既視感のあるものばかりで、寝室いっぱいに撒かれる水銀の怪、これも五歳から歯車の夢とセットになっている。


 発熱は、耳鳴りと関節痛と、それ以上に皮膚の異様な敏感をもたらす気がする。症状としてこれがどこまで一般的なのかよく知らないが、いかにも皮膚の薄そうな、たとえば腕の内側、脇腹など、そういう部分が触れるだけでひりひりする。風を浴びるだけでなんだか嫌な予感がする。私は体調が悪くなるとまず、皮膚の薄まりを気に病む。


 


 


 

年末信仰

 過日静岡の飲屋で酒を呷っていると、隣に座った妙齢のホステスが、


「年末進行でバタバタですよ」


 と言った。年末進行とは出版業界に聞かれる単語で、年末年始の印刷所休業につき入稿時期が早まるタイトな日程を指す。と私は認識している。ダンテ・アルギエリの話についてくる珍しいホステスだったので、


「……編集者?」
「漫画家です」


 よくよく聞いてみると私も幾度か原稿を書いたことのあるX社で、都内ならばたいして珍しくもない出来事だけれどもこんな場所で相見えたところが私の心に響いた。たださえそういった方面には仲間の少ない地域であるから俄然、話にもうねりが生じるように思われた。ところが彼女の態度といったらむしろ硬化の一途で、しまいには黙して語らずの木偶となってしまった。潤んだ瞳を横に逸らして、その話は止めましょうよとしきりに言う。全然繋がりを持ちたくないらしかった。


 そうして今日は都内にて世話になる会社の忘年会に参加した。全員が全員、痩せたね! に始まるからには本当に痩せてしまったようで、我が身のことなれど今更心配になってきた。生前中島らもは『病気でやせるダイエット』を提唱していたけれども、今年の私は『叱られてやせるダイエット』を実践した。痩せた、というよりは摩耗した感がある。体感にして五年にも十年にも匹敵した。限られた時間を長く感じられたのは紛れもなく良いことだが、開口すれば怒鳴られ、閉口すれば詰られして、次第に飯も喉を通らず、肋骨が浮き、ついには五十三kgを切った。かたや卒業時に同体重だった友人は宇宙の如く膨張を続けており、いまや七十五kgとなっている。水死体のような体型をしている。私も彼も、増減においては等しく十一kg、ストレスが或いは過食になびき或いは拒食になびきした挙句、それぞれこうもなったかと、全裸で銭湯の鏡面に映じる二人の往時の面影なきを大いに嘆じたのはまだ今月の話だが、かなり昔のことのようにも思われる。


 忘年会では一万円を手に入れたが、新幹線の往復にさっさと消えた。ショートカットの榮倉奈々があまりに可愛すぎて、ほかのことは今のところどうでもよい。

 


 


 


 



 

シャカタクを聞きながら

「軍鶏の賭博があるから、行こう」


 聞けば、賭博場は山の奥深いところとはいえ家から三十分も走れば到着する場所だった。その日私はコーヒー豆を買うため提案された山からは真逆の方向へと車を走らせていたのだが、軍鶏見たさにUターンすると、いきなりのサイレンは警察だった。走行中の通話とUターン、シートベルトの締め忘れをいっぺんに咎められた。そんな一気に言われても、わかんない……。


「これは聞いた話ですけどね、どうも今日の●●時から軍鶏の賭博が△△で行われるらしいですよ」


 平成も二十年を超えて軍鶏のどさ回り。山林の深くに建てられた廃屋の中は、三十人からの見物客がくゆらす煙草の煙でもうもうとしている。取り組み表を見ながら、めいめいが思いを金に託す。ツキのある人間に乗っかる輩もあれば、西、西と続いたから次こそは東だろうと、マークシートを解くみたいな確率論を唱える輩もある。寡黙に眺める輩もある。場内は男共の声に揺れており、声色はまた、結構な酒気を帯びている。仕切りはいかにもの顔をした男三人、観客の多くは軍鶏が来るたび集まるその場限りの顔見知りだが、お互いを知ることもなければ知ろうとも思わないのは、それぞれが自分以外の群衆を『おあつらえむきないかがわしい雰囲気を醸してくれる奴等』くらいにしか意識していないせいだろう。闇スロその他違法賭博のどれもがそうであるように、軍鶏賭博もまた、紹介のないことには参加が難しい。共犯意識が結束を固めているからチクりに現場が割れることもない。道楽を奪われたら何より自分が困ってしまう。


 とはいえ私は行ったことがない。上記は、『軍鶏賭博』という単語から私が見世物小屋的欲求を揺すられて思い描いた、こんな賭博場に行きたい、というフィクション。森の中で人が群れたらやることといえば呪術か賭博か虐殺くらいしかないのだから、木漏れ日すらやましく思えてしまう日曜の午前十時というものを味わってみたい。みんな、捕まったかしら。


 ところで先日、私の知らぬ間にヘリコプターが上空を旋回していたらしい。田舎ですから、怪情報が飛び交った。


,劼辰燭り発生
大規模な交通事故発生
パチンコ屋の宣伝


 祖母は私のために、これだけの候補を揃えてくれてあった。事実、ちょうどその日にひったくりは発生したし、道路にしても事故渋滞で随分詰まっていた。こうすけ、どれかと思うと問われて、,呂修鵑並膤櫃りにやることではない、はヘリコプターの旋回がパチンコの宣伝に繋がるわけがない、だからまあ、トンネル内玉突き事故で火災発生、死亡者多数のような災禍が起こったのだとすれば、△海充然の気がするよと、そう答えた。


 明くる日、


「そういえば昨日のヘリコプターは、海岸に土左衛門があがったのだそうだ」


 風説は本当にあてにならない。ところで田舎ですから新聞に載るものとばかり思っていたけれども、土左衛門に関するあらゆる情報はヘリコプターが旋回したにもかかわらず、地方ニュース/新聞にすら扱われなかった。町民は不信を隠せない。


「わけありか?」
「いや、事件性のない死亡事故なら強いて報道するまでもないでしょう死者にも尊厳はある」
「だってヘリだよ!? わけありだろう」
「これでは人に品性を求めるなど絶望的だな」
 

 ヘリコプターなんて、アメリカでは農場の上空にすら旋回している。


Boot Campでwindows7

 仕事柄、MacBookが屁ほども役立たない。CS5は素晴らしい。けれども最早本職は編集ではないので、昼間に彼らが顔を出す事は稀となった。Open Officeにしてもそう、フリーソフトとしては極上だけれども、エクセルとの一方通行がどうにもならない面倒を引き起こす。そうして何より、建築図面に用いられるdxfやjw、これらを開くことのできるソフトが価格40万越えのvectorworksやAUTO CAD for Macに限られている。さすがに買えない。このPCはいつの間にやら銭ゲバに育ってしまった。


 建築用ソフトとして広く出回っているものに、フリーのjwcadというものがある。私はまだ図面作成の何が出来るわけでもないが、勉強はしている。jwcadはwindows専用のアプリケーション。支出を最小限に抑えつつ図面を弄る手段として、Boot Campでwindows7を起動させ、jwを使用することにした。イラレが或る程度できる人なら感覚でどうにかなるところがjwの良いところで、フリーにしては出来がとても良い。


 windows7のインストールはとても簡単で、全てを終えるまでに六時間かかった。


 起動してみると解像度がセーフモード並のドットで度肝を抜かれたが、それは修正することですぐに改善された。Macでは使えないexplorer9のベータをインストールする。これまで立ち上がりの早さからChromeを使用していたけれども、こいつは相当早い。ところが、『かな文字』が打てない事態に直面した。ウェブを練り歩いてみるに、windows7を入れてから再度MacのSnow Leopardをインストールせねば重要な色々がまずいらしかった。残念なことに私はこの前の大掃除にてSnow Leopardを捨ててある。Appleに電話をした。


「お電話での技術サポートは、一件につき4800円」


 ディスクは無料で米国から取り寄せてくれるそうで、さすが悪辣な金額をせしめるだけあって対応の丁寧なこと甚だしい。二週間後にはwindowsの動作も完璧となろう。


 明後日にはメモリも届いて、現状2ギガを8ギガに増設することとなる。そうなったらマイクロソフトオフィスも最新のものを導入する。ああ、Mac Book Proが明らかに所有者のスペックを超えてゆく。結局、毎日のように利用するのは原稿を作成するためのJeditだというのに……。

 
 ……しかし私の大本命は実のところMac Proで、12コアの怪物を使って何をしたいわけでもないのだが、ホームページで希望のスペックを見積もってみると、130万前後した。私のMac Book Pro13型を10台購入してなお、釣りがくる。パソコンがこうも高いとは知らなかった。27型のLEDディスプレイを2枚並べて何をしたいのか全然見当もつかないが、とにかくこの条件のPCが手元にあれば何も怖くないという思いはする。windows7のダウンロード期限が1年間と限られていることと、CS5はあと1台にインストール可能であることと、近い将来にAUTO CADが手に入る可能性があることを加味して、買ってしまうかも、しれない。


 とはいえまずは、山から滑落した自動車の修理代金30万円である。よくよく腹を見てみるとフォグランプが割れ、フレームもめりめりになっていた。気付かない人がいるものかと驚かれるほどあらゆる部位が痛んでいた。ボルボが中国企業に買収されていた事実をごく最近ドイツ人に聞かされたので、次はジャガーを買う。フランクフルト空港に飾られていた新型ジャガーの格好良さは近年見た車の中でも図抜けていて、もっとも価格は1400万前後と人生のうちに買えるかも怪しく、なんとなく言ってみた。



ブレーメンです

 私のいつもの海外出張は、両隣を埋める百キロ超級肥満外国人に汲々たる思いをしながら便所にも行けないエコノミーの物語で、びたいち動かれない。食事時になると、アルミパック臭い飯を分けられ都度、ガツガツやる。地上から見ると陽射しに煌めきよだかのように美しい飛行機だが、ごうごう轟くジェット音の半分は、ブロイラー戦士たちの嗚咽である。


 けれども今回は、マイレージが溜まったという恩恵から、往路はビジネス。どれほど自由かというに、漫画喫茶ほどでしかないが、フィレステーキは藤田和之の握りこぶし大、部下の前で尾崎の卒業を唄い体制を批判する管理職よりかは納得の空間だと思う。その支配に加担しているのはどこのドイツだ。いけない、私は今、ドイツに来ているのだが、うっかり、バレたか……。


 フランクフルト空港、滞在時分に通い詰めたおとなのおもちゃ屋にて、インポテンツの男性でも斜め45度を保つことのできる画期的なフック状の装着具を土産に購入すると、ICEでハンブルクへ向かう。一等席の割には狭く、時差ぼけの怖い私は飛行機も併せて三島の『幸福号出帆』と山田風太郎の『幻燈辻馬車』を読了。ようやく北の商業都市へ到着したのは日付も変わる時分、凍てつく空気が今年のドイツの厳冬を予感させた。すぐに帰るからどうでもよいが。


 土曜、北端の港町nodenhamへ移動し、ちょっと仕事をして、ブレーメンへ入った。あとは会食のほか予定はなく、日曜はまるまる空いている。買い物でもしようかと考えていた。だがし恐ろしきは欧州文化、日曜にはいかなる店も門戸を閉じている、私はそれをこちらへ来て思い出した。時期が時期なので野外にクリスマスマーケットは栄えているかもしれないが、家具や文具や調理器具を吟味したかった思惑は見事に空かされる。今日は何をしよう。


 ところでフットボール賭博に精を出すドイツ男性と話していると、「タクハル」「タクハル」。何をか言わんや、熟考するに高原のことだった。HSV在籍当時、彼は多くのファンに愛されユニフォームはいつも売り切れ、非常にグートな男だったが、今はどうだと問われて、私は、南北朝鮮戦争を論じるよりもなお悲痛な顔をしながら、高原を語った。「Oh……」彼もまた、舌平目をつまみながら国際情勢に明るい頭を回転させ、日本の民主党政治体制をドイツ視点から憂えた際にも増して、沈鬱な表情になった。


 遠方に繰り広げられる戦争よりも、朝方の空腹のほうが個人にとっては問題だ。


 では私はこれから、教会へ行ってきます。髪なき世界、帽子を外すのは神の前だけと決めている。

於北海道

 わたくしは、先日まで北海道に逗留しておりました。


 札幌の青空は/限りなく高いよ/どこまでも楡の木が/のびてゆくせいだよ


 きっと時代でございましょう。わたくしの目撃した札幌には、楡(ニレ)の木などどこにも生えておらず、公園には白樺(シラカバ)が幾らか散見できましたけれども、闇夜の虚空に伸びゆくものはただ、娼婦街のネオンライトと羊肉の焦げる匂いばかりでありました。それでも空の高くそして甚だ広きを嘆じずにはいられなかったのですから、あながち懐古主義ばかりが人を慰めるわけではない……。


 道産子はみながみな、美しゅうございます。彼女たちの手足が他県の女性に比して明らかに長いのは、また或いは肌の白いのは、偏に日の弱い土地柄にその要因がありましょうか。わたくしはそうでなくて、始祖時分における白系露西亜人との混血に因るのではないかと考えます。そう申し上げますのは、白い柔肌と黒髪の艶やかなる彼女たちは、確かに華奢ではありますが、よくよく注視してみますと、肩幅などはそう狭いわけでもなく、骨格はむしろ西洋人のがっちりとしたそれに近い。瞳の大きさ、目鼻立ちのきわだって端正な点も、良い意味で日本人離れしている。たいへん合理的な美をそなえているように感ぜられました。


 とはいえわたくしは、いかなる道産子を腕(かいな)に抱いたわけでもなければ、至近に観察の機会を得たわけでもなく、ただただ、道行く美女のすれ違いざま、それらいちいちを視姦した挙句に覚えた印象を語っているに過ぎません。けれども、彼女らに漂うあの強気と自信を看過できるほど、わたくしの神経は粗雑にできていない。脱げば和彫りの花札四十八(しじゅうはち)枚、などという娘は、北の大地には存外に多いのではなかろうか……。


 わたくしの道産子に思うのは、彼女たちは数ある美のうちでも、ひときわ稀なる一つの美の様式に、先天的素養から、総体として収束している。その美とは即ちシンメトリーであって、香椎由宇のそれであって、俯瞰した札幌の道路構造でもあります。景観が人を作るとはよく言ったもので、北海道の女性たちは、実に碁盤目状に規則的な札幌市が如く、端正で、美しい。それは翻って、異邦人たるわたくしの眼には誰を見渡しても既視感のある、さっき見たような気のする、金太郎飴的な美でもあります。そこには、低身長に愛嬌の加わわればひとまず好しとする内地独特の美観に対する甘さはなく、ストイックなまでに合理美を追求する、道産子の高尚な精神性が窺えます。


 もちろん不細工もおりましょう。事実、全国高校合唱コンクールの北海道代表をブラウン管の向こう側に眺めましたところ、米粒みたいな昆虫みたいな女子も、いないではなかった。それでもわたくしは、総体としてシンメトリーの美に最も近しいのは、北海道の女性に違いないと踏みます。学生時分に出会った女性を思い返してみても、特徴的に美しいのは誰もがみな、地図を渡せば北の大地を指差したものです。もっとも、地図など携行したこともありませんが……。


 唯美主義とは斯様に、己の理想を現実に押し付けるイズムであります。これはともすればステレオタイプの助長を招きましょう、はたまた現実との乖離から己の精神に破綻を来すこともありましょう。


 もっとも、現実を己の理想におとしこむイズムなど、マジック・ザ・ギャザリングのコモン・アンコモンほどの価値をも有せざるところの塵芥(ちり・あくた)でございましょうが……。


 

盆栽は天災に泣き凡才は天才に哭く

 咄嗟に思いついたことや目撃・観察した奇岩怪虫更には印象的な夢など、忘れるより早く携帯の未送信メールにジャンル別に保存してゆく癖の後天的についた私は、そうやって瞬間的な記憶を残してあるのだが、一昨年のものを見ていたら題目に掲げられたような中年風情の文句が謳ってあって、しかもそこから下にはなんだかよく意味の分からぬ掌編がしたためてすらあって、思わずドコモを解約してしまうほど面白くなかった。というわけで私への連絡は以降、ソフトバンク一本でお願いします。


  ここ数週間、仕事と関係なくもないが金が一切発生しない物体Xの制作作業に膨大な時間をとられ続けている私は、昨晩には二人の女性に助力を求め深夜まで、今日とて相変わらずアジトにて鉛筆と糊とアートナイフとを走らせていたのだが、息抜きかねてポッキーつまみつまみ、『夜と霧』の新訳を読了してパイプ椅子を並べた編プロ式簡易ベッドに寝転がるとたちまち夜、磨り硝子の窓越しに街灯の仄かな白い光を受けた室内は、かつて性的な悪事を働くため忍び込んだ夜九時の中学校の教室に似ていた。何も進まぬまま危機感ばかりを募らせつつ、一人ボーリング場へ行くと球を1ゲームだけ転がした。スコアは100。銭湯とスタンドへ寄って帰宅した。ガソリンが枯れていたのである。


  帰途、私はこの現在進行形の作業を貫徹することの意義を疑い始めた。まず日数が絶対的に足りない。それに加えて、こちら側の提示したあらゆる提案を蹴られて『自分にとって』面白くないものを無償奉仕にて完成させることのメリットが一向浮かばない。完成品を見てむしろ腹を立てる未来の自分が容易に想像できる。私は、頭の中にめぼしい友人を思い浮かべて、さあ彼らが私の立場になったとして、一体誰がこれを引き受けるだろうと思案した。そうして誰もやりそうにないなと思った。


  そのうち私の頭はこれを忘れて、新たなビジネスモデルとしてのシロアリ飼育妄想について夢中になった。シロアリを繁殖させて、夜な夜なそこらの民家にばらまくのである。そうしてシロアリ共が柱を内側から食らい尽くしたであろう時節をはかって、自らがシロアリ駆除業者に扮して無料検査に入る。巣食う魔物を家主に見せれば地震を畏れる静岡県民のこと、即座に駆除を要請してくる。設備も含めれば広い家ならば数十万にものぼろうか。しかしながらまだ終わらない。私はいかにも善意めいた笑顔で、「ついでにリフォームもどうですか、格安で御見積致しますよ」そう提案する。リフォームという言葉の持つ高額めいた響きにいったんは断りをいれつつも、シロアリによって骨抜きにされた家ではいかにも気味が悪いという妻の心配を夜な夜な聞かされるうち夫も折れる格好、後日に電話をかけてきて、「リフォームの件なのですが、具体的にどれくらいの予算が……」という案配。悪質なマッチポンプだが、マスコミのそれに較べたら動く金とて可愛らしいものだ。とはいえ逮捕の対象であり何より自分はこのような詐欺的な商法を精神的に許せないので、フィクションとしてどう描けばリアリティを持たせることができるか、という部分を練り上げるに終始していた。 


   斯様な妄想をしていたほうが、まだ建設的で宜しいのではないかと思われるほど、現今課せられている作業には私の得が少ない。代役がいたら喜んで放り投げたい。      

睡眠薬に夢を忘れて

 どうしても早く寝たい、けれども眼の輝きがいっこう失われない、そんな晩には睡眠導入剤マイスリー。というのがこれまでの私だった。海外出張後の時差ぼけだの、面白い小説に引きずられる夜だのの翌日に必ず出現する「とても眠い」この大いなる支障を未然に除去するため、数年来の付き合いをしていた。薬の効きやすい体質もあって、これを服用するとたちまち眠くなる。睡眠が深いのであろう、翌朝の身体は普通に眠るよりずっと軽い。けれども、マイスリーに頼る晩は必ず夢を見ないことに先日気がついてから、服用をやめた。人生のうち、夜の部をみすみす捨ててしまうのは惜しいことだ。


 新たな彼女が出来たけれども、別れた彼女の番号を、消すには未練がありすぎて、それでも今の彼女への罪悪感がたまらない、精一杯のけじめとして、『彼女』フォルダから『地元友達』フォルダへと移した、元彼女からの電話には、変わらず特別の着信音を設定してある……。そのように揺れる友人のセンチメンタルを聞くにつけ、ああなんとJ-POPなのだろうと感嘆して、今宵は中々眠れない。


 暑熱と多忙とに飯を食うのを忘れていたため、体重が63キロもあったところが55キロになってしまった。これは痩せたというより精神的緊張に窶(やつ)れたという表現が正しく、あまり健康的ではない。或る女の友人はそんな風になった私を見て、馬鈴薯からメークイーンになったねと云った。依然としてじゃがいもの範疇ではあるものの、レディースが着られるからにはやはり結構肉が落ちた。普段は興味のないヴィヴィアンに出向くと丁度、洒落た秋物の上着が販売してあってレディースながらサイズは好い。私は相場を知らないものだからせいぜい二万と踏んで値札も確認せずレジ台へと乗せたところ五万円のお買い上げだそうで毅然とした態度にて分割した。大寒時分に重用する分厚いコートならいざ知らず、初秋に着るような薄手のジャケットに五万も出せるほど私はモード学園脳ではないので閉口したが、この五万のうちブランドネームの占める額が三万程度だろうかと思うと次からは才能ある知り合いの服飾デザイナーにラフ画を渡して作ってもらったほうがなんぼか安くしかも素敵なやつが出来上がるかもしらんと前向きに衣服あれこれを勘案したりもした。


 ターンエーガンダムが予想以上に面白かったので、明日からの一週間はその余韻で乗り切ります。

ア・オイ・クーにガンダム立つ

 今日という久々の休みを利用して、連邦の白い悪魔を見物してきた。処は残念ながらア・バオア・クーではなく、静岡市のア・オイ・クーである。

ガンダム


 もう少し近づいた画像があればよかったのだが、生憎電源が落ちてしまい私の肉眼にのみ彼の勇姿は焼き付く運びとなってしまった。ガンダムが好きで尚かつ、台場を見逃した方は是非ともこちら静岡で見るのが良い。と申しますのは、静岡の人口密度は都内の一割であるから、まずゆったりと見られる。加えて、このガンダムの立つ東静岡駅近辺は本来静岡駅近辺から都市機能の一部を移転すべくお偉方の奮闘した土地であったところが、企業の誘致失敗はおろか一般住宅の増加も見込めず、完璧な失策を犯した格好となっている。近くには様々のイベントを行うグランシップ、これは巡洋艦ムサイの如きいでたちをした個性的な巨大なホール、があるばかり。もし県外から人間が集まればこの閑散たる東静岡にも銭が落る、静岡の財政の潤った暁には私の一生のうち見てみたい建造物の一つである、徳川家康公の住まわれた駿府城の再建も叶うかもしれぬ。バンダイを抱える静岡であるから、城門の左右にはサザビーとνガンダムが構えているような……、という私欲からも、是非静岡へ一度足を運んでいただきたい次第。


 ガンダムを見るも触るも無料、但しプラモデルの変遷、歴史を知り窺うことの出来る資料館入場には600円が必要となる。高いと思う勿れ、この中には、ジオングとの最終決戦後、宙空を彷徨ったコアファイターの実物大が置かれているのである。


 九月までは夜間になるとライトアップされるそうである。フェアは始まったばかりであるにもかかわらず今日の混雑具合を見るにつけ、むしろヤマダ電機のほうが凄かった。閉幕の来年三月にはどこまで客足が落ちているかしらん。屋外で過ごすことこそ快適な十月あたりからは、暇あればガンダムを見に行こうと思う。茶を啜りつつ読書に耽る眼前に、アムロ・レイの魂。これは、いいものだ。

きれいな奥さんは、好きですよ

 講習を終えたら直帰で構わぬという指示によって本日は常より早い仕事からの解放、午後五時であった。中学時代の友人に連絡をすると、じゃあ飯でも食おうかと云う。彼は新婚で、奥様は私の幼なじみである。あの頃は彼女もすね毛を無造作に生やす大したじゃりん娘だったが、今や欠点の見つからぬ恐ろしい美人に成長した。真面目な会社で事務に明け暮れているが、旦那の収入如何によってはさっさと専業主婦をやりたい、私は日がなぼうっとしていたいのよとこれは彼女の以前からの口癖であるが、妻がこの次元なら旦那も仕事に心血を注がないはずがない、というわけで私は五時から暇であったにもかかわらず、


 「十時半に家に来てくれ、飯をご馳走するから」


  彼の激務により結局五時間半を空白とした。参考書を開く気にもならなかったので車中iPhoneに黒岩涙香を読むうち熟睡していて、ハッと涎を拭えば十時半、伺った。


  私のよく知るあの家の面影はどこへやら、随分豪華に改装されてあって、二世帯住宅の二階部分に彼ら夫婦は暮らしていた。愛想よく玄関のドアを開けてくれた奥さんは、するすると廊下を進んでリビングへ私を案内すると、そのままキッチンへ向かって慣れた手つきで料理の仕上げにかかった。差し出された麦茶はよく冷えていて、いやあと私がそれをすするなり上等のハッシュドビーフとルッコラと生サーモンにオリーブ油を絡めたサラダがテーブルに用意された。非常に美味で、会話にしてもこちらが話せば随分笑い、問われたことには一捻りを加えてこちらを飽きさせないといった案配で、外見ばかりでなく中身も磨かれて実に素晴らしい女性に成長したものだと、一人感心しながらウンウンと唸りつつ飯を平らげた。


  この二人は学生時分の初恋同士で、一切の横道にそれることなく直線的に結婚にこぎつけた。敬虔なクリスチャンも納得の睦まじい夫婦で、旦那のほうがマックブックを買おうと思うのだがとアップルのサイトをちらちら見ていれば、奥さんは控えめに隣から顔を覗き込ませて、そんなに高いものでもないのだから買っちゃえばいいじゃん、仕事で欲しいのでしょう? と、言葉に籠る真実の慈愛に私はまったく微笑ましくなった、幸福な二人と時間を共有することで私すらなぜかしらん幸せな気持ちになったのである。そのように幸福な時を過ごしながら、ふと窓を見遣ると、全身チェック柄に手塚治虫のような眼鏡と帽子を被った突拍子のない変態が映り込んでいて、他ならぬ私であった。


(きれいな奥さんとの結婚生活か……)  


 幸福とは不定型である。であればこそ、私は、私らしさを失ってはいけないと思った。  

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