スポンサーサイト

  • 2015.10.23 Friday
  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

一定期間更新がないため広告を表示しています


天外

ずいぶん仲の深かった二人の間に、とりたてて何が起こったのでもないくせ、気付けば歩み寄り難い距離感が生じているなどといったことは大人にもなれば珍しくない。要するにはどちらかが変化したか、或いは同じゅう物を見てきたつもりがそもそもの突入角度で微妙ながらの誤差を持っていた。それが五年十年ともなれば一度は近づきひとたびは交わった二人とて交差してからはあと遠ざかるばかりともなろう。私は今もまた出張でアメリカにおり、宇宙ステーションからボウイのスペースオディティを歌う映像に心を打たれている。私とて谷崎愛から女の腋を剃りたがるが布石の回収期間からしてがちょっと覚悟が違うなと思った。


まだ1+1も定かならぬ愚鈍極まる歳の子供が、骨の伸びるより早くたっぷりと肉付いた柔らかで小さな手に握り締める風船の紐を手離す際、果たしてもう風船はいらないのか、離すなよと再三親から云われその禁則を破りたい欲望に駆られたのか、或いは眠かったのか、それとも海月と見せかけ海亀を殺害したいのか。風に任せ空へ昇りほどなくただの点となるゴム塊を眺めて泣くのは、因果を理解していなかったのか、はたまたこういう時には泣くべきだと誰かから教わったのか、その誰かとは碇シンジではなかったか。また、手離す際には掌をぱっと開いたのか、折られた指を一本ずつ、確かめるようにしながら開いたのか。


カーテンの隙間から射す陽光を受けて煌めく塵を見て、埃まみれと罵る。











ギブソンSGが五万

 先日、アメリカ出張の合間に時間があったのでギター屋へ立ち寄った。店内は天井が高く、上位モデルのレスポールともなると値段というか物理的にちょっと高いところにありすぎて値札を見るすら憚られた。私は左利きなので対称になった形状を目で追いつつ、例によって基本色の基本モデルのみが二三本飾られているばかりであることを確認すると、あとは細かいものを見て回った。狭い通路であるにもかかわらず、試し弾きに興じるバンドマンや愛好家たちが中華料理屋風の丸椅子に組んだ片足を投げ出すようにして大げさに腰掛けているので私はパックマンのように安全な路地路地を選びまた進んだ。と、両乳首から輪ピアスを垂らす筋肉質な上半身裸の店員が話しかけてきた。


「何をさがしているんだい?」
「SGの相場はどんなものですか」
「今年の新作はこれだ、6万円」


 無塗装のボディにはピックガードもなく、なんというかむき出しの木材めいていていかにも安価な風貌と見受ける。されどネックにはGibsonの文字が燦然と輝いており、聞けばSGJなる廉価な新モデルだった。


「これじゃあエピフォンが更に苦しいですね」
「おやおや、エピフォンだってとてもいいメーカーさ」
「そうですか。僕のギターはエピフォンのシェラトンです」
「うっわ、シェラトン、だっさ」


 本場アメリカではギブソンもこんなに安いものかと大いに驚いて帰国後、そのような話を数人に触れ回ったところで本日、ふとしたことからSGJについてネットで調べてみると、円安であるにもかかわらず五万で販売されていたのである。新品のギブソンが五万を割る時代に突入した。通販でおなじみ激安カスギター共はこの先どうなってしまうのか。


「俺らの頃はな、いきなりギブソンなんて選択肢はぜんたいあり得なかった。なけなしの小遣いを握りしめて、バンドやろうぜの巻末に並ぶ入門セットみたいな写真をじっくり眺めて、眺めるほどに単なる劣化コピーなんだが、それでも良さげなやつを買ってだな、届くまでの数日間をそれこそ天にも昇る気持ちで待ったものだ。近所に楽器屋もなければネットなんてまだまだ一部のマニアの遊び道具だったからな。そうしていざ家に届いたギターを触ってみて、弾いてみて、やっぱりカスなんだこれが」


 懐古厨とは往々このようにして生まれるに違いなかった。
 


 


 


 

 

於中国

現在、出張にて中国にいる。霧の濃い大連から吉林へと入り、一面雪化粧の田舎では未だ古めかしい中国の姿が散見できて、新鮮でありつつも大半は苦しい。

まず私は、脱輪しかるのち埋められたでお馴染みの中国新幹線にて吉林へと向かった。五時間の旅程ではあったが予約された座席が特等と呼ばれる特別の指定席で、小説を読むに快適な環境であったことは幸いだった。他の車両では音源剥き出しの映画鑑賞に興じる輩や、落花生をばりぼり貪りながら殻を投げ捨てるばばあなど多いため、本を読み耽るにはあまりに程遠い喧騒がある。私はそこで三島由紀夫の午後の洩航を読み、名古屋で買っておいたじゃがりこを食いながら幸福な時を過ごした。


そうして吉林に入り、臭気の強い海鮮飯屋にてビール片手に昼飯を摘まむと、そこからはひたすら車の移動にて三時間、目的地を目指した。豪雪に空と地面は色を同じくし、薄ら白い景色がひたすら続くうち、私は眠っていた。


到着地のホテルは簡素かつWi-Fi環境もLANも通っていない古びた宿で、私は携帯の海外パケットがいかほどのものか、諤々たる思いでこの文章を紡いでいる次第だが、どうしてわざわざ日記をしたためているかというに、先の酒席の辛さがある。


中国、特に田舎では未だ乾杯の風習が強い。誰も彼もが好き勝手に酒を飲む日本と違って、中国では誰かがグラスの底をテーブルにコツンとぶつけて乾杯を唱えた際に、みんなで酒を呷る。口をつけるだけ、半分、或は一気と乾杯にも種類があって、次にはどれがくるものやら、私のような下戸は内心びくつきながらガラスのぶつかる鈍くもあり鋭くもあるあの音を待っている。


例え強制されるにせよ、ビールなら容易いところが、山地には白酒という強烈な酒があって、みなこれを湯呑よりは大きなグラスで呷る。度数にして五十、一口飲めば胃が燃える。山の男共の酒豪たるや神話級で、五杯も十杯も容易い。かたや私は、二杯も干すうちには酩酊の相、五杯に至れば嘔吐必至。全身の茹で蛸めいた私の紅潮など介することなく乾杯の儀は続き、そのうち私は便所へ駆け込み今食ったものと飲んだものを全て空にする。中国人たちは私の弱さを不思議に思い、笑い、且つは尚も進めてくる。吐いたのだからまた飲めるだろうという塩梅である。私は、数ある辛い業務の中でも、わけても中国の酒席が辛い。マイナス三十度、ロシア国境極寒の地にて吹雪に頬をぶたれながら丸太を見るより、原価を割るほど安い単価を平気で差し出す塩っ辛い顧客の対応より、何より過度の酒が苦しい。これはもう、酒に弱い人にしかわからない話で、人体の限界を超えた量の摂取とくれば、あとには一晩を経てなお引きずる身体的不快ばかりが残る。二日酔いはやがて怒りへと変わり、どうしてこんな目に合わねばならぬのだと、段々出張そのものを、呪詛するようになる。


ところが、酒を楽しく、極限まで飲むことこそが山地中国人にとって最大の接待でありまた、娯楽なのである。酒の強い奴は話のわかる奴であり、同時に仕事のできる奴となる。これは日本にもその残滓があるのだから体育会系的発想というのは中国生まれなのかもしれなかった。ただ、その度合いが日本を完全に超えており、吐いて吐いて吐きまくってなお、五十度超えの酒を無理強いしてくる中国人は、私にしてみれば殺意なき殺人をしてがす悪人にも思えてくる。


「みんなそうやって強くなるんだ」


この言葉が虚しく響くのは、そもそも私は本当に楽しい人と過ごせる席であるほか、酒に意味を見出せない下戸なのであり、したり顔で酒は慣れだのと云ってはくるが、この人は本当に飲めない人間の、この、人智を絶する酒酔いの辛さを、わかっているのだろうかと訝しく思うからに他ならない。こんなに辛いことを知りつつ、それでも強いてくるのなら、おそらくはその人は犯罪者予備軍であると私は思う。あまりに思いやりに欠けていると思う。たとえば私は他の人よりも上手に書類を作るが、その水準を他へ求めることは絶対にない。無理だとわかっていることを進めることはないし、皆で不足を補いながら物事を遂行すれば、何も困ることなどないのだから。一方で己の不足を半ば無視しつつ、他方で己と同等の技量を求めるのでは、これはあんまりにも優しくない。


結句、相手への思慮深さの大小なのだと私は感じている。まずは、己に宿る、よかれの精神を疑ってみないことには、他人への奉仕などできたものではないというのが、私の根底にある。


白酒だけは、本当に辛い。


飯野賢治死去

 飯野賢治という名、あの風体、とても懐かしい。バーチャファイター2前夜、今にして思えば、私の思春期はポリゴンによって形作られていたのであった。


 飯野氏といえば『Dの食卓』で、私はこのソフトに思い出が深い。中学一年の冬、とある友人が3DOを貸してくれたのである。私の持っているNEO GEO CDと、しばらく交換しようというはこびだった。プレステやサターンを追従することもなく次世代ハード競争に完敗した当時の3DO、そのユーザーたる彼は、見る目なさを周囲からバカにされること再々ではあったものの、私のネオジオCDに至っては、ローディングのたび猿のお手玉映像を一分眺めていねばならなかった問題外のローディング時間と、更に加えてポリゴン処理不能の糞スペックによって競争にすら参加できていなかった。私はサターンやプレステユーザーにも「ちょっと交換しようぜ」のアナウンスをそれとなく幾度か試したのだけれども、まるで相手にされないところから妥協を重ねるうち、3DOの彼に辿り着いたのであった。さりとてPC-FXユーザーからの期限付きトレード案は、断ったものである。


 ところでこの3DOユーザー、いかに負けハードとはいえネオジオCDと比べてみれば多少の矜持があったようで、


「本体はいいよ、だがこれは貸せないわ」


 手札を簡単に切ろうとはしないのである。彼が頑として私に貸すことを拒んだのは、『お姉さんといっしょ! 着せ替えパラダイス』で、エロのない3DOなど粗大ゴミに過ぎず、私も様々の提案をした。


「わかった、じゃあこっちも貸すから」
「なんだよこんなゲーム見たことねえよ」


 3DOユーザーの彼にすら鼻で笑われた私のゲームこそ、当時にあっても週刊ジャンプの広告頁でしか一般人が目をすることがなかったアタリ社の『ジャガー』である。所有ソフトはスペースシューティングだが登場人物はみなライオンという『クレッセント・ギャラクシー』で、糞ゲーだった。


「なんだよこれスタートボタン何個ついてんだよ」
「十二個だよ、悪いか」


 危うからぬところでそもそも私の話術に乗ってこない友人は、結局エロゲーの一切を貸してくれず、3DOと共に手渡されたのは『ドラえもん 友情伝説ザ・ドラえもんズ』と、冒頭にも名を出した『Dの食卓』であった。意図せずして両作にのめり込んだ私は、その後3DOをあやうく買いそうになるほどその機種に惹かれてしまっていたのだが、すんでのところでゲームショップの店員からサターンを勧められ、その時には『Dの食卓2』と『バーチャファイター2』を購入し、後者には大いに狂うこととなった。だがそのサターンすら、しまいにはプレステに食われることとなったのだから、つくづく私にはハードを見る目がない。


 飯野賢治という名を見るにつけ、ゲームを取り巻くあれこれに胸をときめかせていた当時を思い出し、またそういう自分を彩るところの一人物が死んでしまったとなれば、過去は一層過去となり、緻密に覚えている気がしていたいろいろも、よりポリゴンめいてきた。

 

unicoというインテリアショップについて

 本日、市内を練り歩くうち家具屋が目に入ったので入り口をくぐると、いかにもインテリアを愛していそうな美女連が熱心に商品を眺めていた。unicoは全国展開を見せるインテリアショップで、ほどほどの値段にて洒落た家具を販売しているという話を聞いていたから、さてどの程度のものなのだろうかと私は半ば楽しみに、そうして半ばデザインよりは原材料を主に辿りながらその原価率を探っていた。してみると、おかしな食器棚を見つけたのである。


『材質:チーク』


 こう謳ってあるにも関わらず、チークが使用されているのは前板のみで、側板、棚板、天板のどれもが人工杢によって化粧されていた。背板に至ってはポリ素材のプリントで、これは一体どういうことかと私はまず訝しがり、そうして値札の十万越えを見るにつけ、いよいよ驚愕したのであった。ブランドネームにつられたバカの買うものだったのである。


 まあ、前板のみとはいえチークが使われているのだから材質に嘘はない。商売とは所詮そのようなものだと疑問を呑込み他へと目を向けた。そうしてみればまたもや材質にチークを謳う、こんどは本棚が現れた。こちらに至っては一切チークを使用しておらず、全面が人工杢にて仕上げられている。


 人工杢とは名の通り、人工的に木目を形成した特殊化粧材を云う。素材は化学製品ではなく木で、主にはアユースやバスウッドがこれに使用される。安価で、染色加工に対応できる無個性な白肌と、切削に容易な硬度がその理由となっている。一ミリ未満のアユース材を数十センチにも積層し、そこへ垂直に鋸を入れてみれば不思議、断面たるや素人目には直線度のある木目のように映じる。よく見れば均一すぎて不自然なのだが、その縞を利用しつつ、脱色や染色を施し、あたかも天然の木材であるかのように見せるのが人工杢である。今回unicoにおいてはチークとしてそれを使用していたのだから、私はそれは罪にあたるのではないかと思った次第で、小さな目をぐりぐりに見開いているうち、顔の小さい男前な店員が声をかけてきた。


「こちらがお気に入りですか?」
「これ、チークですか」
「こちらはそうですねーチークですねー(適度に甘ったるい声)」
「いや、チークじゃないですよね」
「えっ? (カタログスペックを確認した上で)いえいえ、こちらはチークですね」
「いやいや、人工杢でしょ。チークの黄金色を模した着色がしてあるだけで完璧な別物だよ。蟹のつもりが蟹蒲鉾?」
「いえ、でもこちらはチークになりますが……」


 頑として人工杢を認めないこの男は、実のところ人工杢という概念すら知らぬ木目のまるで分からない男だった。が、店員一同もまた人工杢というものを知らぬと見えて、あたかも私が何か電波な主張を始めてしまったかのような、特別学級の加藤君の発表を黙って見届ける学友一同のような、そんな卑しい空気が出たのは事実で、


「少々お待ち下さいませ……」


 と云ったきり彼は奥へ引っ込んでしまった。本部へ連絡を取っていたようである。ただならぬ雰囲気の中で二分も経過しただろうか、再度私の眼前に現れた男前の店員は、確信にも近い笑顔を浮かべながら、


「やはりチークですね」


 と勝利を高らかに宣言するが如く百度目の受け売りをいまいちど、丹念に繰り返すのであった。チークじゃねぇって云ってんだろうが! 激昂した私は、さりとて店員を怒るのも大人げない気がしたので、


「まあとにかく御社はセレクトショップなのでしょう? このメーカーは何ていうの、ALBERO? ALBEROからは今後モノを仕入れないほうがいいよ、おかしいよ」


 共通の敵を作ることで手打ちとするよう言葉を選んではみたのだが、


「あの、こちらはウチのオリジナルブランドでございまして……」
「あ、ああ……」
「え、ええ……」

 
 という切ない別れを迎えた。家具の価値なんてものは、デザインと材質のほか何もないのであって、十万もする棚をあんな売り方で良しとするではずいぶん客が気の毒だ。さしあたって本社へ問い合わせをかけてはいるが、もしいかなる返答もないようであれば、私は悩ましい。

チラシ、さもなくばチラシの裏

 インターネットは自由な空間だが、夥しい情報のうち八割程度が広告だろうと私には思われる。わかりやすく商品を紹介するものから陰謀論を提唱するものまで、とにかく何らかのベクトルを受け手に与えるという意味での広告が、ネットには巡らされている。


 私はこの身に限られた文才をなお削り落とすが如く他愛も無い提灯記事を雑誌にもウェブにも書きまくっているが、そのうちにはステマと呼ばれているような類いのものもある。書く側にしてみれば商品名を記載する点からしてが噴飯で、機能からメリットから何から、これ以上ないところまで丸出しなのだから、ステルスという語句には非常な違和感を覚える。本当にさりげなく紹介したいのなら、名前すら伏せるべきである。だが情報弱者や知性に欠ける人のみを狙い撃ちせねばならない広告においては、曖昧な文学性など不要なのだった。広告に感性を授けるのはコピーライターの仕事であり、そこにのみ詩心は許される。私もどうせならコピーライターをやってみたい。


 テレビもネットも、基本料金さえ支払えば見放題という実にわかりやすいユーザー優遇の背景には、膨大なノイズを受け容れることが前提になっている点を理解せねばならない。テレビはネットよりもなお悪辣で、民放を一時間も観たところでその中に知りたい情報は五分あるかないか。わかった上でというか、無駄を無駄として楽しまず無自覚にノイズをすら受け容れてしまうようでは、本当にテレビは人間から時間をいともたやすく奪ってしまう。毎晩三時間も観ていたら、それだけで人生はとても短いものへとなってしまう。毎晩三時間ずつ映画を観ていればひとつの趣味となろうもの、テレビは作り込みが映画よりも甘いだけにそもそも物足りないのである。質として。バラエティで笑いたければ、芸人それぞれ渾身のDVDを観たほうが密度に勝る。テロップと笑い声挿入ありきでしか面白いと感じられないのであれば、それはもう脳の退化である。


 ネットは、検索語句が明瞭であるならば、知識欲と直に繋がるぶんテレビよりは効率が良い。けれども怠惰に流れて関連語句をだらだらと追いかけ始めたらさいご、気付けば空も白けている。夜を締めくくるにふさわしいエロ動画を手早く見つけるつもりが、ちんぽ握りしめたまま二時間も経過していたなどというのは、全世界の男が幾度となく経験したであろう恐怖でありまた、抜きたいのに抜け出せない、毛だらけの不毛である。


 私は、触ったこともない商品を、ポータルサイトや雑誌の編集者が求める程度に記事内で褒め、その見返りに銭を受ける。触ったことのない乳を、どこに用途があるのか知らぬアプリを、宗教がかった思想を、とにかく褒めて銭を受ける。実体験の一切含まれぬ妄想文章がそのまま金となるのだから、こんなに楽なことはない。


 そういう広告か、そうでなければあとはもう私のブログを含む大多数の、つまらなくてしかもどうでもよいが何らかの利益に左右されない自己愛に基づく表現物、有料コンテンツを除けばほぼこれらによって成立しているのがネットであって、チラシかチラシの裏かというのは比喩でもなんでもなくて、実際にそうなのだと私は捉えている。広告の比率は今後更に増加してそのうち誰にも相手にされなくなる頃には新たなメディアが発生しているのであろう。新たなメディアが発生した時には、活字文化も終焉を迎える気がしている。
 


 


ぎゃくせつのまさし

 浮いた金が発生したので、ソファとベッドを部屋に置こうとインテリア製品を販売するウェブサイトを巡回していると、彼女から別れに関する内容のメールが飛んできた。


 それから二時間ほど、様々なサイトを巡回した後に目当てのローベッドとコーナーソファを発注した私は、扁桃腺の腫れに伴う高熱にうなされながらも、堅実な買い物が出来たことに深い充足感を覚えつつ床について高熱のまま朝を迎えた。朝には必ず鳴るはずの彼女からのメールがないだとか、そういう別離を偲ばせるいかなる要素も見つけられないままに、一晩を経て今に至る。付き合っている頃から、彼女は私の中に生きてはいなかったのだ。


 彼女は私の生活一切に対して、ひとつの干渉もしてこなかったし、是正の類いをぶつけてくることも滅多になかった。そういう意味ではまことありがたかったのだが、彼女もまた甘え方を知らぬ不器用な人であったため強請るということを知らず、挙句我々は月一度のセックス行為以外には何一つの恋人らしさを共有することなくこのたびを迎えてしまった。価値を認められなくなったからあちらも別れを切り出してきたのであろうし、私もこの関係にはもう価値が残っていない気がしていた。


 稀に彼女は私とディズニーランドへ行きたがったが、きほん出不精の私はあくまでも在宅を主張し、映画を観たがった。ならばと彼女はスターウォーズ全作を観たがったが、スターウォーズという名称から予期される群像劇の濃度を恐れて私は松本清張シリーズを観たがった。じゃあそれでいいよと頷かれると、まじで松本清張観るのかよと、私は映画そのものを拒否した。つまるところ私は彼女と娯楽を共有する気がなかったのである。彼女が出してくる提案の全てをへし折っているうち、私という存在を全否定するこの男はちょっとおかしいのじゃないかと、そんな考を深めたのであろう、たまに飯へ誘ってみれば、普段は全然連絡もよこさないくせに、いきなりご飯って、今日こうやって二人でご飯を食べることには何か意味があるのと、意味論を吹っかけてくるのであった。


「意味はあるさ、今日は仕事が早く終わって時間がある上に、俺もお前も腹が減っているのだから」
「そっか」


 ぜんたいこんな調子で過ごしていれば、この男にとって何が可で何が否であるのか、彼女として思い詰めるうち、どうやら面倒な男であると、そういう結論に辿り着いて然るべきで、そのようにして別れに至ったと私は踏んでいる。


--彼女に対する愛情が怪しくなったのは何時頃ですか?
「彼女がファミレスで『うまっ』という言葉を連呼した、ある晩ですね。これは後々気がついたのですがどうやら彼女の口癖で、飯を食い始める際に『うまっ』という言葉を非常にしばしば口にする。なんか、私はアレが生理的にダメでした」
--付き合ってからどれくらいのことですか?
「三日目ですね」


 まさしながら、彼女は善い人だったと思います。まさしながら。

 

月曜日のユカ

これは加賀まりこ主演の69年公開映画だが、彼女の美しさに私はすっかり虜となってしまった。不機嫌気味な皺だらけの顔でタバコをふかしながら荻原聖人と雀卓を囲むばかりが私の印象たる加賀まりこの、若年期の魅力たるや最早名状し難い。声、動き、容姿とそれらすべてに幻惑された。鏡を眺めながら紅を落としつつ鼻歌の交じる場面に及んでは、これはもう二次元でしか到達し得ないと私には永らく思われていた美の極点を見た。


その前に観た『盲獣』主演の緑魔子も、同じくとても美しかった。梶芽衣子しかり范文雀しかり、果たしてこの時代には今よりもずいぶん美女の多かったのではないかとそんな気さえしてくる。現代にも名の残る美女をつまんでいるからだと云われればそれまでだが、出張帰りの機内で眺めた『あぶない刑事』の浅野あつこは琴線にぴくりとも触れなかった、というか、言葉遣いも服装も前髪も、すべてが正しくない気がした。補正をかけてもあまりある化粧不細工の八十年代後半から九十年代という思いがある。本当にあの時代は、美女をすら不細工にする化粧過剰の時代なのだろうか。好況の狂騒只中にあっては塗れば塗るほど良い、もしくは周りがここまで塗るからといったインフレに見舞われていたのだろうか。どうでもいいが、私として当時夢中となった女優連が一定の客観性を帯びた今になって振り返ると、あらゆる他の時代と比して完璧に美しくない点が不可思議で仕方ない。


学ランの裏ボタンを永谷園でまとめていたあの頃が、或いは……。









2013年

 本年度もよろしくお願い申し上げます。

 
 とはいえ私は世事に疎くて今年を2014年だと思っていた。ところで私はこれまで自動車から女まで色んなものを購入してきたが、わけてもプロジェクターは総ての人々に勧めたい商品で、二万程度で150インチ大画面の迫力を漫喫できるこの装置を買わない手はない。ロックバスターすら納豆並の大粒であるし吉永小百合も南波杏も美人はいっそう美しい。安価ながらにサウンドシステムを揃えて部屋すら綺麗にした今となっては映画館へも行きたくない。もっとも昨年は一度も映画館へ足を運んでいないのだが。HDMIでパソコンと結んでFC2動画でも巡っていれば今年も瞬く間に過ぎゆくには違いない。


 とはいえ今年の私が一頃と明らかに違うのは、立派になるだとかそういうものではなくやたら動悸が激しいというこの一点に尽きる。不安なことなど一つもないのに、悩みなど禿げているほか一つもないのに、禿にさえ目を瞑れば原因らしきものまるで見当たらぬ中での動悸、やはり禿が原因かもしれない。がしかしやはり禿ではない。禿だが、禿ではない。ないものを欲しても始まらないというか、既に終わっている。動悸の正体がパン屋に勤める初恋美人なのかそれとも単なる病気なのか、調べに行こうと思う。パン屋に。


 年初にはさる革命家が静岡へ立ち寄ってくれたので元連合赤軍植垣氏の経営するバー『バロン』にて雑談を交わした。革命家は相変わらず話術も抜群で、この空気感をそのまま映像化できたらそれだけで上質の娯楽番組が出来上がるものをと他人ながらに歯がゆい。など思いつつも当の私は昨年末から長引く時差ボケに頭がひとつも回っておらず、あいだももといいだももが頭の中で混同されるに及んでは言葉を口にするも憚られる心地がして猛烈な眠気を理由に帰宅した。海外出張の重なる冬の時期は時差ボケにほとんど頭が死んでいて、さりとて春は花粉症に殺され夏は暑さに溶けるのだからもはやこの先健全な私というのはなく、一年のうちの大半を言い訳で埋める用意は出来た。


 ほうぼうへの連絡伝達も中断気味になっているので、まずはそれらをこなしつつ2013年を揉んでゆきたい。


 


 


 

 
 


 


 

乱交前夜

 忙しさが度を超えると何もできず、かといって暇が極まれば何もしなくなる。私はせめて後者でありたかったが、雑な金銭感覚を有しているため前者たらざるを得ない。こういう人間に限って己の到達し得ぬ無私無欲を欲しては仏門に下り、家出少女をかくまうロリコン坊主に成り果てるか、もしくははじめからロリコンである。私はせめて前者でありたかったが、乙な異性感覚を有しているため後者たらざるを得ない。


 朝の九時から電話が鳴って、年下の設計士からだった。彼に頼まれた翻訳原稿を放り投げて半月も経過していたので、催促が来るのならそろそろだろうかとは思っていた。頭で言い訳を紡ぐより早くうっかり親指をスライドさせてしまった私は、電話越しに念仏のようにすいませんすいませんとぶつぶつ唱えて先手を打ったつもりであったが、


「ああ、翻訳もそうなんですが、合コンです。前に話していたやつ」


 ほっこりする話題というほかない。彼の姉の旦那の妹、という女性と私を是非とも巡り会わせたいと、そういう流れがそういえばあった。朝から合コンの思案とは、さすがクリエイティブな人間は柔軟である。だが私は、彼のいわば親戚筋にもあたる女性に万が一性的な非礼を働いた末には、この姉の旦那とかいう義理の兄にぼこぼこにされるのではないかと、胸が痛いものだから、


「猿渡君は知らないだろうがね、こう見えて僕はインポだ」
「ちょっと僕の親戚にヤリ目とか勘弁して下さいよ! とりあえず出張から帰ってきた週末は空けておいてくださいね、ほかにも二人来ますけど、一人はめっちゃ可愛いですよ」
「男は?」
「僕らと湯気君です」
「ああ湯気君か、彼はいい男だ。じゃあそれまでに腹筋を十五個に割っておくよ」
「奇数ですか! でもそういう軽妙なヤツ期待してますよ、ではっ」
「あっ、そういえば猿渡君!」


 と、ここで電話は切れてしまったが、まず初期悟空の腹筋は上部が半円で総数も奇数であるから鳥山にまつわる言葉で対応するのがこの場合においては正しい、加えて、私には目下のところ彼女がいるのだった。


 私の彼女は留学を検討中で、私は彼女のためにその書類を英訳せねばならないのだが、それもまた放り投げている最中で、まだ見ぬ異国の地に対して心理的な不安を露骨にする彼女を差し置き、浮かれた丸眼鏡でのこのこと合コンへ出向くなんて、毛深いくせに、私が女であれば絶対に彼氏にしたくない類いの男だ。と、ふたたび猿渡君から、こんどはメールが届いた。


「ちなみに今回の合コンは、今までに会った静岡県民の中でいちばん面白い人を連れて行くってことになってますから、お願いします!」
「静岡県民でいちばんは、マジカル・パワー・マコじゃないの?」


 衆院選も間近に控え、もしやこの会合そのものが、比例は公明党でヨロシク! の、あれではあるまいなと、そこだけを心配している。

 

 

 

 


 


 

calendar
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< March 2017 >>
sponsored links
nekokiの本棚
twitter
selected entries
categories
archives
recent comment
recent trackback
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM