『材質:チーク』
こう謳ってあるにも関わらず、チークが使用されているのは前板のみで、側板、棚板、天板のどれもが人工杢によって化粧されていた。背板に至ってはポリ素材のプリントで、これは一体どういうことかと私はまず訝しがり、そうして値札の十万越えを見るにつけ、いよいよ驚愕したのであった。ブランドネームにつられたバカの買うものだったのである。
まあ、前板のみとはいえチークが使われているのだから材質に嘘はない。商売とは所詮そのようなものだと疑問を呑込み他へと目を向けた。そうしてみればまたもや材質にチークを謳う、こんどは本棚が現れた。こちらに至っては一切チークを使用しておらず、全面が人工杢にて仕上げられている。
人工杢とは名の通り、人工的に木目を形成した特殊化粧材を云う。素材は化学製品ではなく木で、主にはアユースやバスウッドがこれに使用される。安価で、染色加工に対応できる無個性な白肌と、切削に容易な硬度がその理由となっている。一ミリ未満のアユース材を数十センチにも積層し、そこへ垂直に鋸を入れてみれば不思議、断面たるや素人目には直線度のある木目のように映じる。よく見れば均一すぎて不自然なのだが、その縞を利用しつつ、脱色や染色を施し、あたかも天然の木材であるかのように見せるのが人工杢である。今回unicoにおいてはチークとしてそれを使用していたのだから、私はそれは罪にあたるのではないかと思った次第で、小さな目をぐりぐりに見開いているうち、顔の小さい男前な店員が声をかけてきた。
「こちらがお気に入りですか?」
「これ、チークですか」
「こちらはそうですねーチークですねー(適度に甘ったるい声)」
「いや、チークじゃないですよね」
「えっ? (カタログスペックを確認した上で)いえいえ、こちらはチークですね」
「いやいや、人工杢でしょ。チークの黄金色を模した着色がしてあるだけで完璧な別物だよ。蟹のつもりが蟹蒲鉾?」
「いえ、でもこちらはチークになりますが……」
頑として人工杢を認めないこの男は、実のところ人工杢という概念すら知らぬ木目のまるで分からない男だった。が、店員一同もまた人工杢というものを知らぬと見えて、あたかも私が何か電波な主張を始めてしまったかのような、特別学級の加藤君の発表を黙って見届ける学友一同のような、そんな卑しい空気が出たのは事実で、
「少々お待ち下さいませ……」
と云ったきり彼は奥へ引っ込んでしまった。本部へ連絡を取っていたようである。ただならぬ雰囲気の中で二分も経過しただろうか、再度私の眼前に現れた男前の店員は、確信にも近い笑顔を浮かべながら、
「やはりチークですね」
と勝利を高らかに宣言するが如く百度目の受け売りをいまいちど、丹念に繰り返すのであった。チークじゃねぇって云ってんだろうが! 激昂した私は、さりとて店員を怒るのも大人げない気がしたので、
「まあとにかく御社はセレクトショップなのでしょう? このメーカーは何ていうの、ALBERO? ALBEROからは今後モノを仕入れないほうがいいよ、おかしいよ」
共通の敵を作ることで手打ちとするよう言葉を選んではみたのだが、
「あの、こちらはウチのオリジナルブランドでございまして……」
「あ、ああ……」
「え、ええ……」
という切ない別れを迎えた。家具の価値なんてものは、デザインと材質のほか何もないのであって、十万もする棚をあんな売り方で良しとするではずいぶん客が気の毒だ。さしあたって本社へ問い合わせをかけてはいるが、もしいかなる返答もないようであれば、私は悩ましい。
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