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  • 2015.10.23 Friday
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溌剌たるPIZZA

まだアメリカにいる。昼から時間が空いたのでピザを食べようと思った。ちょうどこのあたりはかつてイタリア系移民の群れて成した地区で、今となってはちょっとした高級住宅地となっているらしい。確かに立ち並ぶ家々はどれもが広い庭を有し、安価な手押し式ではなく人の乗り込む大きな芝刈り機をそなえてある。ぼうぼうになるまで放ることなくよく刈り込まれた庭の凛々しい青味は金総書記の襟足かブラジル人女性の陰毛かといった塩梅で、斯様な細かな手入れを維持できる心的余裕とガレージに仕舞われている自動車の立派さから想定される金銭的余裕これらいずれをも叶える人々には少なくとも平均以上の知的水準が伺えた。そもそも庭の芝を美しく保つという行為は我々の考える以上にアメリカ人にとっては大切事であるらしく、他人の芝が青く見えるなどという諺も然りアメリカ人にとっては隣の芝が見事であれば誇張なく羨ましくもあり妬ましいことでもあると聞いた。ただ、エンジン駆動に黒煙巻き上げながら芝をバリバリやっつける様はなんともアメリカ的というか、巨漢共が芝刈り機に乗る姿は尻のはみ出かたや背中の丸さといいマリオカートのドンキーコングのようでもあり、かつての日本で見られた夕暮れ時に割烹着姿で庭先に水を打つ婦人たちの姿のほうが、よほど清潔な印象を私には与える。


それはそれとして、そんな芝の上等な庭だらけの高級住宅地の一角に、細い小道のどれを抜けてもイタリアンレストランが路面を挟んだ両岸に目の弱くなる彼方までずらり立ち並んでいる区画があって、ピザを食べたい私は路地を縫い縫いやってきた。


日本の路面はひとたび雨の降り始めたら黒光りするような濃色だが、こちらのはもっとずっと白くて、雲なき爽快な青空と白い路面とが地平線の向こうに溶け合うまでのコントラストは南国の砂浜のようである。両岸と形容するのはこのためで、また、道のど真ん中を歩いていたせいで危険な黒人の乗り込む大型車両にクラクションを鳴らされてから気付いたことには、一段高くなった歩道には誰が手入れをしているものやら毛足の長い芝生の絨毯が端正に敷かれており、等間隔に立ち並ぶ新緑の瑞々しい街路樹の間ごと、白人女性たちが容姿の割にはどうしてか色気に欠ける半裸姿でシートを敷き敷き日光浴に興じていたのである。玉木ティナ並がいないことを確かめると今一度私はインモラルな歩道から路面へと下りて、通りの続く限りその果てまでを、中央分離帯のように路面のど真ん中へと立ちすくみつつ眺め続けた。それほどまでに、明快な白青緑の三色から構成された空間にレンガ造の店々が茶けた赤い帯となって両岸に伸びゆくこの一枚絵は、ずいぶん私の想像する外国というものに近かったのである。


ひとしきり風景を楽しんで後、煙草の吸えるレストランを探した。路に面してテラス席のある店を選ぶと、地場のビールと16インチのピザを注文した。同席する青年は朝から水泳とウエイトに興じていたというだけあってシャツ越しにも筋肉の隆起がはっきりと見て取れ、湯気の出ているように生々しい。テーブルの真ん中から伸びたポールに支えられる大きな傘の下、淡い陽光を受けた彼の表情には彫像の如き陰翳がたくわえられていて、睫毛の濃さとあいまって妖しい色気を醸していた。隣にいる彼の婚約者よりも私に対して何かしら強烈なセクシャルな観念を想起させて止まない彼は、ピザを取るため手を伸ばすたびシャツの隙間から腋毛をちらつかせ、目のやり場に困る思いがした。そうして目線を外そうとガラス張りの店内を覗いてみれば、そこには同性の腋毛にへどもどする己の顔面が、全面に光を受けて一片の翳りなくタマゴのようにつるりとしていたのである。


「dandelion puffs」


さっきから私の取るピザ取るピザいちいちにタンポポの綿毛がへばりついてくる。迷惑そうに呟く私に対して、彼は問う。


「花言葉、知ってますか?」
「タンポポの花言葉は、真実の愛、思わせぶり、あとたくさんありますね」
「難しいですね、反対ですね」
「ときがたい謎というのも花言葉の中にあります、タンポポとはそういうものなんでしょう」
「ふぇぇ」


彼は日本語も堪能なので、そこから先は日本語で続いた。隣では彼女が退屈そうな顔でわからない言語の会話に耳だけは貸しつつ、ピザの上を剥がして頬張っている。彼女の皿にはピザの旨味たる表層がどっさりと盛られている。


「私、ピザというかチーズが嫌いなの」
「おいおい彼はピザが好きなんだ、そういうことを言ったら駄目だよ」
「ふん」


なんでも二人はつい先頃に婚約したそうで、それも出会ってからの手続きが極めて迅速であったため未だたいへん熱を帯びているらしかった。そこへきて、元々は近場の祭りへ出向く予定を潰されてまで私との食事会に時間を奪われ、蓋を開けてみれば日本語でばかり会話をしているし、私の視線は恋する女のように照れているのである。まだ若い彼女にしてみれば、それすら嫉妬めいた不機嫌の種になるらしかった。さりとて深読みしすぎかもしれない。


「若いというのは素晴らしいことですね」
「YES」


三十路の私に対して、溌剌たる笑顔で彼女が応える。と、急に街路樹をざわめかせた突風はテラスを駆け抜けると、彼と彼女の頭にそれぞれタンポポの綿毛を二つずつ残して去った。

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