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  • 2015.10.23 Friday
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於中国

現在、出張にて中国にいる。霧の濃い大連から吉林へと入り、一面雪化粧の田舎では未だ古めかしい中国の姿が散見できて、新鮮でありつつも大半は苦しい。

まず私は、脱輪しかるのち埋められたでお馴染みの中国新幹線にて吉林へと向かった。五時間の旅程ではあったが予約された座席が特等と呼ばれる特別の指定席で、小説を読むに快適な環境であったことは幸いだった。他の車両では音源剥き出しの映画鑑賞に興じる輩や、落花生をばりぼり貪りながら殻を投げ捨てるばばあなど多いため、本を読み耽るにはあまりに程遠い喧騒がある。私はそこで三島由紀夫の午後の洩航を読み、名古屋で買っておいたじゃがりこを食いながら幸福な時を過ごした。


そうして吉林に入り、臭気の強い海鮮飯屋にてビール片手に昼飯を摘まむと、そこからはひたすら車の移動にて三時間、目的地を目指した。豪雪に空と地面は色を同じくし、薄ら白い景色がひたすら続くうち、私は眠っていた。


到着地のホテルは簡素かつWi-Fi環境もLANも通っていない古びた宿で、私は携帯の海外パケットがいかほどのものか、諤々たる思いでこの文章を紡いでいる次第だが、どうしてわざわざ日記をしたためているかというに、先の酒席の辛さがある。


中国、特に田舎では未だ乾杯の風習が強い。誰も彼もが好き勝手に酒を飲む日本と違って、中国では誰かがグラスの底をテーブルにコツンとぶつけて乾杯を唱えた際に、みんなで酒を呷る。口をつけるだけ、半分、或は一気と乾杯にも種類があって、次にはどれがくるものやら、私のような下戸は内心びくつきながらガラスのぶつかる鈍くもあり鋭くもあるあの音を待っている。


例え強制されるにせよ、ビールなら容易いところが、山地には白酒という強烈な酒があって、みなこれを湯呑よりは大きなグラスで呷る。度数にして五十、一口飲めば胃が燃える。山の男共の酒豪たるや神話級で、五杯も十杯も容易い。かたや私は、二杯も干すうちには酩酊の相、五杯に至れば嘔吐必至。全身の茹で蛸めいた私の紅潮など介することなく乾杯の儀は続き、そのうち私は便所へ駆け込み今食ったものと飲んだものを全て空にする。中国人たちは私の弱さを不思議に思い、笑い、且つは尚も進めてくる。吐いたのだからまた飲めるだろうという塩梅である。私は、数ある辛い業務の中でも、わけても中国の酒席が辛い。マイナス三十度、ロシア国境極寒の地にて吹雪に頬をぶたれながら丸太を見るより、原価を割るほど安い単価を平気で差し出す塩っ辛い顧客の対応より、何より過度の酒が苦しい。これはもう、酒に弱い人にしかわからない話で、人体の限界を超えた量の摂取とくれば、あとには一晩を経てなお引きずる身体的不快ばかりが残る。二日酔いはやがて怒りへと変わり、どうしてこんな目に合わねばならぬのだと、段々出張そのものを、呪詛するようになる。


ところが、酒を楽しく、極限まで飲むことこそが山地中国人にとって最大の接待でありまた、娯楽なのである。酒の強い奴は話のわかる奴であり、同時に仕事のできる奴となる。これは日本にもその残滓があるのだから体育会系的発想というのは中国生まれなのかもしれなかった。ただ、その度合いが日本を完全に超えており、吐いて吐いて吐きまくってなお、五十度超えの酒を無理強いしてくる中国人は、私にしてみれば殺意なき殺人をしてがす悪人にも思えてくる。


「みんなそうやって強くなるんだ」


この言葉が虚しく響くのは、そもそも私は本当に楽しい人と過ごせる席であるほか、酒に意味を見出せない下戸なのであり、したり顔で酒は慣れだのと云ってはくるが、この人は本当に飲めない人間の、この、人智を絶する酒酔いの辛さを、わかっているのだろうかと訝しく思うからに他ならない。こんなに辛いことを知りつつ、それでも強いてくるのなら、おそらくはその人は犯罪者予備軍であると私は思う。あまりに思いやりに欠けていると思う。たとえば私は他の人よりも上手に書類を作るが、その水準を他へ求めることは絶対にない。無理だとわかっていることを進めることはないし、皆で不足を補いながら物事を遂行すれば、何も困ることなどないのだから。一方で己の不足を半ば無視しつつ、他方で己と同等の技量を求めるのでは、これはあんまりにも優しくない。


結句、相手への思慮深さの大小なのだと私は感じている。まずは、己に宿る、よかれの精神を疑ってみないことには、他人への奉仕などできたものではないというのが、私の根底にある。


白酒だけは、本当に辛い。


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コメント
だいじょぶかいな。
我不会喝酒とできるだけ繰り返してね。
  • 雪子
  • 2013/03/01 11:43 PM
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