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  • 2015.10.23 Friday
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先読

 先日の文学フリマを上々にて過ごした山本清風から新著『先読サキヨミ』が、実家に隣接した建物へと届けられた。私はそれを受け取ると、連合くまだの人間魚雷並の速力で門を滑り抜け、突発のスプリントに肺胞を潰しながら蒼白の面持ちでミッションの壊れた二速ボルボを発進、星空に照らされた田舎道を、猫もゆっくり前を横切る安全徐行にてアパートへと向かった。


 Tポイントカードの青黄色が床という床を埋め尽くすアパートの部屋へ着くなり連合くまだの人間魚雷並の速力で布団へ滑り込むと、カメヤマロウソク赤芯聖火の15号に火を灯し、ちらつく光を頼りにかの著作に目を落とした。そうして瞬く間に読了し、まったく彼の人間性に感動したのだった。


 作品は、一人の男が社会と、愛する女性とに対して、向き合う姿勢とも呼ぶべき思想を、主に先入観によって解釈/展開してゆく物語である。内容はとても素直である。ただ、本作の冒頭から紹介される通り、主人公にはサキヨミという常ならぬ能力があって、比喩であるべき他人の特性を可視してしまう。たとえば、上司から仕事を振られたくないあまり、存在感を消すことに懸命となる社員が『本当に透けて見える』などといった形で能力は発揮される。比喩がそのまま実存となる主人公を前に、他人の性質/欠点は決定的につまびらかとなる。


 感受性、洞察力、客観視能力に優れた人にとって、確定的に相手を解釈せずにはいられないほどの先入観が作用することは珍しいことではない。そのぶん、あてが外れたときの代償も大きいのだが。また、このような経験は誰にでも少なからずあることだろうが、それを端的に表現するための手法として、このサキヨミという能力は作中にて大いに機能する。それは……といった具合にあらすじを追ってもしかたないので、このあたりは是非読んでもらうほかない。


 あとは個人的な感想となるが、まず主人公は誰でもない山本清風本人であり、読後に残るのは、様々の副題も作中には絡んでいるけれども、メタファーや言語感覚の卓抜も確かに村上春樹よりはよほど凄いけれども、何よりも、彼の妻に対する愛の強さ、これはもう本人が何を云おうとも私は絶対に持論を曲げない。どこを起点にこの物語の着想を得たのか、私は判然としないが、ともあれ長篇として読者を安心させて最後まで読ませる極太の幹にあたるのは、一途なる或る結末へと向かう作者の意志であるように思う。


 谷崎潤一郎は自身の妻から着想を得て細雪を書いた割にはその内実においてはずいぶん妹の雪子推しで、そのだらしなさゆえ私はシンパシーを覚えずにはいられないのだが、それよりはいくぶん硬派な今作である。ユーモアがないという意味ではない。ほぼユーモアに固められているのにここまで描けている点が前人未到であるということを云いたい。山本清風の人生のうち、時間軸においてはアルバイトから正社員契約へと連なるその一部を切り抜いたに過ぎないが、彼に備わる過剰なまでの感受性と受動的把握能力という性質を、メタを交えて作品に取り入れ半ば自伝的に扱ったのが今作であると私は勝手に解釈したい。そうして、結婚に至るまでの彼の道のりを作中に読み解く限りにおいて、私は結婚という行為そのものではなく、そのような人と出会ったところから結末へ至るまでの凄絶な葛藤と努力と苦楽とをも読み取り、ビルドゥングスロマンとしてすら良質であると絶賛したいし、よくぞこの頁数にここまでを凝縮したものだと、魔の山の頂上からトーマス・マンを詰りたい。


 天才というほかない。率直な感想である。


 
 

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