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  • 2015.10.23 Friday
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たとえばカバキコマチグモのように

 カバキコマチグモの雌は、巣の中でおよそ百の卵を産む。そうして、膨大な子グモを育てるため自らを餌にする。子グモが一度目の脱皮を終え心身に外界へ出る境地に達する頃には、母グモは外皮のみを残すばかりとなっている。周囲には母の肉を原料とする子蜘蛛の糞が散らばる。脛かじりどころの話ではない。生物多しといえども産まれて直後に母殺し母食いの原罪を背負う悲劇的な種は少なくもないが多くはない。種の保存を自明とする生物は、自らの運命を疑うことすら知らぬ。食われたくないからと巣を破って逃げ出す母グモはおらず、母を食うのは気が引けると生まれながらにして悟りを開く仏じみた子グモもおらぬ。畜生の畜生たる所以である。


 翻って目下のところ人類は、種の保存という最重要であらねばらならぬ本能すら喪失しつつある。私などかなりこれを軽んじている。というのは人間のみが供えるこの意識というものは、絶えずあらゆるを疑う。どんどん疑ううち、己をも疑う。じき、存在の根拠がなくなる。他者との断絶を自明として受け容れるうち、歴史の中の自己という認識が希薄となり、遺伝子を残すことに執心せず、生き方そのものが自己完結的になる。結句、自分が楽しければそれで良い。そのように知能の高さゆえ滅びざるを得ないというのがSF作家の論法である。それでも生きていこうやと人間を支えるのは理性の学問『哲学』の役目だったが最近あまり活躍していない。思想が死ねば思想に基づいていた人間もろとも死ぬ。思想に基づいていない人間は思想に基づかぬゆえ生き延びる。あまり子の後先を考えていない人ほど子だくさんになりがちなのは後者のような人の多いためであるとは思う。比較的畜生に近い。同時に、疑うばかりで解決を用意せず、子を育てぬ自由などとおかしなことを云うのも理性の賜物っぽくみせた理性の放棄、人類に産まれた者として負わねばならぬ義務の放棄に他ならないので、やはり畜生に近い。つまり私は畜生である。


 人間を生物として捉えれば、子供がいる人が絶対に正しい。聡明な意思に基づいて、肯定的に子育てが出来るのならば、それがいちばん偉いのである。子を食わすに足る立派な職業に就いて、日々の労働に勤しみつつ、余暇には妻なり夫なりと苦楽を分かち合う、まことに美しい人生というほかない。けれども、そのような偉い両親から『適切に輩出された子ども』と、ろくな人生設計もないままにうっかり中出しで『不適切に排泄された子ども』では、そもそも質が違う。産まれてしまえば平等だから、確率的には後者から偉人奇人も当然誕生はするだろうが、だいたいが前者に劣る。そもそも、この世の優劣の基準は前者によって規定されている。世を取り仕切るには非常にしばしば、計画的に生産された子供たちにのみ刻まれがちな優秀な遺伝子と、成功への筋道を築いた実績を持つ両親の傍で育つという他ではまこと得難い経験が必要とされる。計画の出来る人間とそうでない人間とを分つ資質、この差はたかが一生では到底埋め難い。近年では永久恋愛と書いて『えくれあ』の如き名付けがちらほら聞かれるが、いかにも感性のなせる業だと思う。それというのはつまり、親に知性が欠落しているため感性に委ねるほかなかったということだ。知性に基づかぬ感性にろくなものはない。


 チョムスキーの生成文法説がどのような評価を受けているのか私はよく知らないが、少なくとも人間は後天的に、自らの体験によって多くを習得する。一方、蜘蛛は教わるでもなく糸を吐き、子馬は羊膜を破るなりまるで頼りない脚を何故だか信頼して、よろよろと立ち上がる。このあたりを考えてみれば親が動物的に本能の赴くまま子供を産んだとて、育て方までが動物的であったならば、自他をしっかり認識して然るべきを反面教師と捉えつつあらゆるを糧としながら成長しないことには子供は物事を覚えられず道理に暗く育つ。子供が自己責任的に自己を形成せねばならぬというのはあまりに酷というものだ。


 ところで、カバキコマチグモは漢字では樺黄小町蜘蛛と書く。樺の木肌は濃い桃色に近く、それに黄色の混じったすなわち橙色の胴体が小野小町のように美しいからというのが語源だそうである。カタカナにすることでわざわざ意味の通らない日本語にしてしまう悪癖はどうにかならないものかと、そんな調子を文字に刻んでおくつもりが、いきおい逸れた。冒頭の語句を誤ると文章が意図から大幅にずれる。

 


 


 

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