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  • 2015.10.23 Friday
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目覚め 1

「あんた、塩分で身体おかしくなるわよ」
「てめぇが目玉焼きにかける量より少ねぇだろうがふざけんな」
「親に向かって!」
「あー!?」

 
 おかずに箸をつけず醤油を落とした米だけを食う息子を見かねた母親の心遣いであったが、息子である侍男にはいつもながらの煩い小言でしかなく、起き抜けなだけ沸点に達するのも早かった。怒りに大声をあげた侍男は、そのいきおいで今度は手に持っていたみそ汁の椀を母親に投げつけると、熱いと絶叫する母をよそに居間を抜けてそのまま家を飛び出した。おさまらない感情から力まかせにドアを閉めたものの、外側からはいきおいのつかない仕様が速度に覇気をもたらさなかったものだから、思惑の外れた侍男は更に憤慨して大声をあげると、ドアを思い切り蹴飛ばすことで感情表現とした。


 時刻はまだ午前六時、屋内との温度差にたちまち息が白い。烏共が庭で残飯を広げている。侍男は自転車を引っ張り出すと、追い払うでもなくその光景を眺めた。寒さに頭を冷やしたわけではない。生きるために懸命の動物に罪なしのような感情が湧いてきたのである。中学生の侍男には、万事に打算や理屈で動く大人よりも、その場その場をもがく動物共のほうが自分に近しい存在のように思われた。


 学校へ行くにはさすがに早すぎるのであるが、かといっておめおめと家に戻るのは自尊心が許さない。そうしてペダルを漕ぎ始めた侍男の向かった先は、友人の家であった。


「諸田君いますかー」
「あら、早いのね、まだあいつ寝てるけど起こす?」


 玄関に出てきたのは、諸田ではなく二つ年上の姉であった。昔からの顔なじみでもあるし今さら緊張する間柄でもないのだが、侍男は溢れる色気のせいで返事に吃った。自分よりも一足先に中学にあがった彼女を見た時にも同様の思いを抱いたが、高校生となったことでぐっと大人びて見えたのである。小さめのパジャマが身体の曲線を強調しているせいもあった。風呂上がりで暖まった彼女の身体からは熱気と石鹸の匂いとがぷうんと漂っていて、侍男は口で呼吸していたところをとっさに鼻に変えたりした。


「すごい、髪の毛凍ってるよ」


 髪も乾かさぬまま家を飛び出した侍男は自転車で風を切るうち頭を凍らせていて、それを見つけた諸田の姉は、珍しいものを見たといった様子で侍男の髪を弄りはじめた。玄関は廊下よりも一段低くなっていて、侍男はやや見上げるように姉と対峙していたのであるが、彼女が背を曲げながら頭を触るものだから、首もとに隙間ができる格好となっていて、そこから侍男は丸みを帯びた白い乳房と、滑らかなお腹とを見た。薄ピンク色の乳頭とすら目が合った。全身からたちのぼる甘い匂いだけでもたまらないというのに、そんなものを見てしまったものだから、侍男はすっかり頭に血がのぼってしまって、なんやかや話しかけてくる彼女に対してもふんふんと生返事をするばかりで、そのうち体内から湧き出る熱情をおさえることがきかなくなってしまい、


「わあー」


 と一声あげるや諸田の姉を力任せに抱き寄せ、後ろにまわって胸を思い切り掴んだ。見た目よりずっと柔らかい感触が、指から全身にかけて電流みたいなものを伝えた。女性の身体は思った以上に華奢で温かく、且つは甘い匂いがすることを知るにつけ、こんなものをずっと抱いていられたらそれに勝る幸せはない、天国ってきっと女性のことじゃなかろうか、一瞬のうちにそんなことを思ったりもした。


「ちょっと、ばか!」
「ご、ごめん!」


 勢いこそよかったものの、いざ注意されると悪いのは明らかに自分であること侍男にも分かっているものだから、全身を小さく丸めながら後ずさることで謝罪の意を示しつつ、自転車に跨がるとそのまま学校を目指した。


 あたりはまだ暗く、これからみな学校や会社へ向かう平日とは思えぬほどに静かで、自転車のキイキイ音だけが響いている。銀輪を路面に滑らせながら、侍男は諸田の姉との件を回想した。どうせ抱きついてしまったのだから、お姉ちゃんいい匂いがするとか、有り得ないくらい勃起したとか、スケベな身体になっちゃったなとか、そういう言葉をかけるべきだった、などと悔やむべき点を挙げつつ、そうはいってもまたとない素晴らしい経験ができたことを心の底から喜んだ。興奮のせいか、すっかり頭髪は氷解していた。

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