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  • 2015.10.23 Friday
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近所のおじさん

 私の家のすぐ近くに住むおじさんは警視総監ですから、口のききかたの酷いったらありゃしない。人を人と思わぬ威張りで誰彼かまわず蔑んで、それが当たり前のような顔をしています。たしかに立派な地位だけれども、今日も泣き泣き私にすがるお母さんを見ていると、弱い者いじめをするための警視総監ですかと、他人ながらに云ってやりたい気持になります。


 このおじさんは警視総監ですからスケベもきわまっていて、女性を見つけたら即座に職質を始めます。嫌だとこちらが思っても、拒否などしようものなら公務執行妨害とかいう容疑で逆に私達が罪人(つみびと)になってしまうのだから法律って不思議。そういうわけですから私達女はおじさんの卑猥な言葉から逃れる術を知りません。


「お前処女か」


 これはおじさんの口癖ですが、そうふってくる時のおじさんの顔のいやらしさときたら格別で、距離の近いだけに内蔵の悪いらしい腐った口臭も直に当たって不快五割増、思い出しても気分が悪くなります。質問に対して『そうだ』と云えば俺にくれろと迫り、『違う』と云えばセックス大好きなのかそれならさせてくれろと迫ってくるのだから悪辣で、声をかけられた時点でもう詰みも同然、やりきれません。


 更に気味の悪いことには、私達女が答えに窮してもじもじしていると、何を思ったかこのおじさんは、それを羞恥に悶える姿と勘違いするようで、女心の一つも理解していない無粋に私はただただ閉口するのですが、悔しいのはどんな対応をとったところで結局このおじさんを性的に悦ばすことになってしまうことで、お母さんはそのため今日も泣いているのでした。もちろん本当に犯すのような行為には至りませんが、お母さんのように狭い世間でおとなしく暮らしているような人からすれば、おじさんの言葉は鋭く心を刺すに違いありません。五十路を迎えて娘も大きい女性に対して処女かなどと聞く行為、悪意の塊だと思いませんか?

 
 かくいう私もちょっと前におじさんと遭遇してきたばかりで、今日のおじさんは酒を飲んできたらしく赤面に千鳥足のありさまでした。夜ともなれば白い月の浮かぶほかは暗闇ばかりが視界を覆う私の町ですから、時刻の深さからしておおかた●●で一杯やってきたのだろうとピンとくるものあったのですが、まさに図星で、私を見つけるや、●●での様子をぺらぺらと話し始めました。とはいえ酒の量だけ支離滅裂で、しらふの私には少しの面白みもない内容ばかりでした。が、一つだけ奇妙な話があって、それだけは何かしら私の興味を惹くところがありました。


「女を見るたび処女かと聞くことはあんたも知っているだろうが、ついこの前か、まだ年端もゆかぬ七、八歳の少女に聞いたことがあったんだ。といってもそんな小娘には興味なんかない。母親がたいした美人だったから、そっちの困った顔が見たかったんだな。そうしたらなんと娘は『いいえ』と云うわけだ。俺ァ驚いたね。カーッ、もう処女じゃねぇってか。ツルツルのマ●コ穿って大丈夫なのかね。男にしたってそうだ、チン毛も生えねぇ小僧のくせにザーメン出るのかね」


 おじさんはスケベのくせして性の早熟には感心しないようで、言葉の端々から『近頃の若いモンは』のニュアンスがとれました。ただ、私が興味を抱いたのはそんなどうでもいいおじさんの見解ではなく、そこに続いた言葉で、


「まあ、小娘が処女じゃないってことには面食らったが、一番驚いたのはアレだな。ずっと昔、とはいえもう警視総監だったことは確かなんだが、生まれたての赤ん坊に処女かって訊ねたことがあった。俺の愛人の産んだ子供で、場所は病院、膣から出たてのホヤホヤだった。この世に産まれてはじめに浴びた言葉が、よりによって親父の処女か発言なんだから笑えるし人類未曾有に違いないんだが、恐ろしいことにはその赤ん坊、俺の言葉を聞くなり何て云ったと思う?」


「ちがう」


 と、そう云ったというのです。嘘かまことか、おじさんの真心の所在など私には見当もつきませんから、信じる信じないはみなさんの勝手でしょうし、おおかた酒が広げた妄想に過ぎないのでしょう。それでも私は、おじさんの話を聞いてからというもの、パソコンに向き合えば後ろに誰かがいるような気がしてならないし、夜中のトイレにしたって開ける前の扉の向こうに何者かの存在を感じてしまいます。トイレの中の存在については、扉を開ける前、電気をつけた瞬間に一旦は姿を隠すものの、用を足して扉を閉める頃には再び現れるに違いない、そんな確信みたいなものすらあります。おじさんの話を聞いてからというもの、人智を超えた目に見えない恐怖をひどく意識するようになってしまいました…。


 私は、おじさんはもしかしたら今頃には死んでいるかもしれないとすら思うのです。いつか赤ん坊だった子供もやがては大人になるのだし、産まれた先から恨み節を抱いていた以上は、そろそろ具体的な復讐に及んでもおかしくないのではないか、そんな風に思えて仕方がないのです。今日に限って私にそんな話をしてきたのも、或いは偶然ではないのかもしれません。折しも今宵は満月、静かすぎる町の雰囲気がかえって気味悪い。愛おしくもない人なのに、胸騒ぎがとまらないのはどうしてでしょう。


 お母さんは、さっきからずっと私の隣でおじさんから受ける言葉の暴力について涙ながらに語っています。でも、今日にかぎっては私はお母さんよりもおじさんが心配なのです。さんざんろくでもない悪態を私達女についてきたおじさんの安否を気遣うなどというのは母をひいてはすべての女性を敵に回すようなことかもしれません。でも、私にしたって普段ならいっそのこと死んでほしいくらいのことは考えているのです。この心変わりがなんであるのか、分かる人がいるのならむしろ私に教えてほしい。


 お前処女か、思えば私にそんなことを聞いてくれる男性は、おじさんをおいて他に一人もいなかったのです…。

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