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猫木氏ブログをやめる②

「色んな不幸があったという話」
猫――うん、さっきも言ったけど親が逮捕されたりね、あとは猫も死んだしさ、車に轢かれて。
「落差が激しいように思います」
猫――ばか、どっちがだ。親はいいんだよ、良くないけどそれでも生きてるから。不起訴だったし。猫は死んでしまったんだぜ。死んだものは戻ってこないところが辛いよ。生きていればどうにでもなる。あと車が潰れたな。短期間で2台も潰れた。
「車」
猫――そう。はじめ日産のフィガロっていう車を買ってね。ある晩に友人と湾岸の砂利道をドコドコ走ったことがあったんだけど、それが悪かったのか数日後にエンジンが焼けた。高速で徐行みたいに遅くなったと思ったら動かなくなってね。廃車だよ。
「二台目は」
猫――ベンツを買ったんだ。1964年の縦目ベンツ。あれは内装も格好よくてさ、気に入っていたんだけどオイルがガソリンと一緒に燃えるんだよ。だから後ろはもうもうと黒煙舞い上がる具合でさ。車内も夏となれば泡噴く暑さでね。いつ壊れるかと思っていたら半年もせずエンジンが死んだ。廃車だよ。ああ、それからもう一台買ったんだ。
「三台目?」
猫――そう、最後のはマーチでさ、金もないじゃない。だから静岡中を巡って一番安いやつを買った。カナブンみたいな緑でさ、7万円。
「安いしダサいですね」
猫――窓を手で開けるタイプだった。それは最後までよく走ってくれてたんだけど、俺が東京に出てから暫くして、親戚の知り合いとかいう縁遠い人が勝手に乗り始めてね、車検切れを迎えて廃車だよ。
「なるほど。ところで何でいきなり編集をやろうと思ったんですか?」
猫――文章の面白さに目覚めてしまったんだきっと。学生時代から本を読んではいたけど、自分はだいたい人文科学に没頭していたから思想的な影響こそあれ、この人みたいな形式で文章を書きたいのような思いは全くなかった。でもブログをやるうち山本清風という人間に巡り会って衝撃を受けた。そこで初めて文体の価値を知ったね。なるほど文章にはネタの他にも読ませる術があるのかと思った。文字の奥深さを知った。
「文体」
猫――作家には、一流どころの人となれば独自の文体というものがある。ジミヘンにはジミヘンの音があるのと同じくだ。それでね、俺は自分の文章と清風さんのを読み比べて、明らかに足りない様々に気がついて、がっかりしたの。それからようやく小説を読み始めた。22歳。
「何から読みましたか」
猫――まず太宰だったな。読みやすかった。内容的にも男がこんなだらしないこと書いても許されるのかと感心したね。本棚に全部揃ってるのは今でも太宰だけじゃないか。
「他には誰を」
猫――あとは有名どころをさらっていった。小説は読みやすいからいいよね。ヘーゲルの大論理学とか、すげえ時間かかった上に何が書いてあったのか全部忘れてしまったからな。
「インテリぶっていたんですか」
猫――教授の挙げ足とりに命を賭けていた部分とかあったな。偉い人の鼻を折るのが好きだったんだな、あの頃は。
「腹立ちますね」
猫――笑かすか、腹立たせるかの二択だから。そうして友人もおのず洗練されていった。
「どんな人が残りましたか」
猫――童貞とかスカトロ好きとか、残ったよね。
「どんな人が去りましたか」
猫――世界中を飛び回る証券マンとかは、去ったな。
「ダメじゃないですか」
猫――ダメなもんか。
「お気に入りの作家は見つかりましたか」
猫――色々あるが、谷崎潤一郎で決まりだ。
「作品は」
猫――細雪だ。口語体であれに勝る小説はむこう100年現れないと見ている。
「何がそんなに凄いんですか」
猫――色々だ。強いて一つ挙げるのなら、視点の遠さだ。あの作品は三人称視点なんだが、それだけに太宰得意の一人称なんかと比べるとリアリティに欠けるというか、微細に及んだ描写が少ない。ただ、その遠さが絶妙なんだ。ただ三人称というだけではない。あれ以上近くなったら姉妹の美しさが半減するし、遠すぎてもピントがぼける。ギリギリだよ。あのテンションを保った谷崎はあの瞬間においては確実に世界一だ。
「はぁ」
猫――あの作品はね、文字にして映像だ。唯一、何度も何度も読み返した小説だ。言葉の美しさとかその類いは今更褒めるまでもない。永井荷風にしたって、「どんなグロテスクな状況を描くにせよ、谷崎氏はそこで考えられうる語彙の中から最も美しい言葉を選ぶ、故に芸術に至る」みたいなことを言っている。いや、ちょっとは違うだろうがな、あくまでニュアンスとして。
「細雪は舞台を観に行っていましたが」
猫――ああ、舞台はな、小説には勝てない。ただ、うむ、頭が痛い。
「どうしました」
猫――いや、その舞台に一緒に行ったのが、他ならぬ例の女性。
「まあ」
猫――最前列でさ、観たんだ。壇れいとか出演していたけれど、隣に座る女性のほうが圧倒的に美人だったな。
「未練タラタラじゃないですか」
猫――事実だから仕方ない。
「谷崎作品を読んで思い出したりしませんか、彼女のこと」
猫――いやいや彼女しか思い出さないよ。谷崎はね、基本的にどの作品も骨子が同じなの。弱い男が悪魔的な美を備えた女性に狂うという、ひたすらそればっかり。思い出さないはずがない。
「痴人の愛」
猫――そうなんだよ。その女性とね、ある時、一緒に本を読んで感想を言い言いしようとなったんだ。それで俺が丁度卍を読み終えたばかりだったから次は痴人の愛をと思っていたから、一緒に読んだんだよ。
「彼女はナオミでしたか」
猫――それは分からないが、俺がジョージだったことは間違いない。
「狂ったんですか」
猫――しかし彼女は言うわけだ。ナオミはともかく、ジョージは最低と。俺はそれを聞いて、ハラハラしたね。ジョージここにいるんですけどって。
「そう言いましたか」
猫――いや、ジョージねえよな、うんジョージないわ、の具合に迎合した。
「本当ダサいですね」
猫――谷崎を好きっていうのは、根底に彼女の影響があると思う。
「じゃあ彼女のことをキライになったら谷崎熱も冷める」
猫――いや、それはないだろう。そもそも、彼女のことをキライになるというその状況が全く想像もつかない。
「貧弱な男だなあ」
猫――だからブログやめるんだよバカ。
「彼女は年上ですか」
猫――年上だ。
「何歳ですか」
猫――それは言えない。いや、悪い意味とかじゃなくて。
「なんかプレゼントとかしたことありますか」
猫――あるよ。
「何を?」
猫――ビジュアルバムだ。俺の所持品の中でもあれは最高峰の宝物だったのだが。誰に頼まれても絶対にあげないが、彼女だったから、あげた。定価の百倍くらいに見積もっていたからな。ストラトよりも大切にしていたよ。
「そんなものを何であげた?」
猫――いや、元気がないと言っていたから、これを見て元気出せと言った。
「喜ばれました?」
猫――そう捉えている。
「はは、きも」

 続きます。

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