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  • 2015.10.23 Friday
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返歌

 十年来の友人に向かって一升瓶を振り下ろそうとしたまさにその時、頭を駆け抜ける戦慄のリリック。束の間、清風の煽動的な言動に対する怒りは消失、忘れる前に頭の中で復唱した。


俺・最近気になる・サンポール
俺・未来は多分・段ボール
俺・いつも夢見る・ドラゴンボール


 かっちり韻も踏んでいる。自画自賛に値した。鮮烈にして簡潔、弱者からの求心力、弱者に対する訴求力、いずれをも備えているような気がした。これぞ貧乏人に送る哀歌、金にはならない。しかしラップは、反社会的であらねばならぬ。富める者の心の隙間を埋めるものであってはならない。


「呪術的にな!」

「お前、日記つけてるのか!」


 俺がぼんやりと思案に暮れつつ瓶を片手にバルザック然としている間に、清風は枕元の日記帳を熟読していたのであった。木村カエラと熱気球に乗った夢に関する記述を読み上げると彼は、爆笑と同時にごみの山に身を投じ、弁当箱からたちのぼる腐臭も忘れ、捻転した。


「おい、部屋は良いけど俺の心を汚すなよ」

「報われないね」


「しかしだな、報われていないのは何も俺だけではない。生ける亡霊の呻きをリリックに起こしてこそ、ラップだとは思わないか。ワルからワルへの不毛な連鎖、内輪で完結したオナニーラップはもういらない。稚拙な政治性など、論外だ。そこにこそまこと、俺のような人間が必要な気がするのだ。怒れることすら忘れた絶望の民の声を束ねて、それをラップで表現したい。ただ、これは常々思っていたことだが、やるからにはコンテンポラリーに韻を踏むのではなく、パースペクティブにあちらこちらをきちきちと合わせてみるべきだ」

「つまり、いとうせいこうが大昔にやったことを繰り返すというわけだな。そしてその方法論、さっき俺が言ったことだが、まさか俺から聞いたのを忘れて、さも自分が考えついたかのように、己の理論に組み込んでしまったんじゃなかろうな。飲み過ぎだ。まあいい、まずは瓶を置け」

「オケ(置けにかけたOK)」

「それは、ラップじゃなくてオヤジギャグの範疇だ」

「うるせえな、とにかく俺の渾身のラップを聞いてくれよ。いくぞ」


 俺は、清風に先程のサンポール、段ボール、ドラゴンボールのくだりを、聞かせた。


「もう一回やって」


 再び聞かせた。ここでは、オン、ィエーのごと、相槌をも入れてみせた。


「はいもう一回。今度は手もつけて」


「さては遊んでるだろ俺を使って。だいたい、メールしながら聞くなよ」


 清風はどうやら、既にラッパーとしての俺の技量を見定める宵の会に、飽きているらしかった。文学的素養に裏打ちされた彼の箴言いちいちに、粉砕された無根拠の自信。ああ、やはり、自信とは根拠ありきなのだ。自信の根拠とは、認められること。これまでろくに認められてこなかったおれの薄っぺら人生。もう、俺は、生きていく自信がない。そもそも、生きるための根拠が見つからないのである。


「そろそろ帰ろうかな、終電も近い」

「ぷふい、今夜は一緒にいてくれよ」

「女々しいな、おかまか。じゃあ思いをラップで表現してみろ。うまいこと出来たら朝まで付き合ってやろう」

「迷妄・で・不毛・な日々の・消耗・に心は・摩耗・体型は・相撲・それでも今夜は・飲もう」


 清風の顔色が、変わった。


「…ビールが切れたな。しょうがねえ、コンビニ行ってくるか。お前発泡酒だよな? すぐ戻るから待ってろ」


 思えば、これが清風に初めて認められた瞬間であった。その時の思いときたら、到底筆に尽くしがたいものがある。万事、報われた気がした。してみると、俺のラップ転向というのもまた、実にその理由の平明なことがはっきりしてきたのである。俺の望んでいたことはただ一つ、山本清風に認められたいという、ただその一心に他ならなかった。同じジャンルで勝負をかけても負けること必定、それならば俺は、彼の歩まぬ道を進もう、たといそれが本分ではなかろうとも、そうした決意のもと、ラップに挑戦し、めたくそにのめされながらも、かろうじてひり出た最後の一節、それが清風の心に響き、琴線に触れた。無上の喜びである。


 清風もまた、そんな俺の心中を察していたに違いないのである。文学もラップも、いずれも言葉の紡ぎ合い。比類なき文才を誇る彼から見るに、物書き手としては一流足り得ぬ俺が斯様な転回を見せたこと、予想の範疇であり、同時に、安堵すら与えたかもしれない。これで、文学という敷居の高く、且つは拘泥せざるをえない世界から、彼も解放されるかもしれぬとーー


 三十分が経過した。清風は戻ってこない。片道一分のコンビニにしては、随分な手間のかかりようである。メールをした。


「まだですか?」

「もう家です」


 俺・最近気になる・サンポール
 俺・未来は多分・段ボール
 俺・いつも夢見る・ドラゴンボール
 俺・最近気になる・サンポール
 俺・未来は多分・段ボール
 俺・いつも夢見る・ドラゴンボール

 
 白目を剥きながら、いつ終わるともなくこのリリックが頭をくるぐる回ったまま、俺もまた、腐臭極まるごみの中に身体を埋め、捻転した。

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  • 2015.10.23 Friday
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コメント
 我々は平素、「ミクロでサイクルする食物連鎖、めいた不毛クルグル」と呼ばれじつに同士を欠いた孤独な闘いを続けているわけで、あなたが返歌を拵えたこと、そして私がここにお礼をしたためるのも、相当な決意があること、皆さんどうか解って頂きたい。
 何故なら、



「不毛な連鎖、内輪で完結したオナニーラップはもういらない」
 書いてあるのだから――。



 感想としては嬉しかったし、面白く読ませていただきました。先ずもって、私が随分にこき下ろした十年来を、自棄とはいえ、二重映しに自虐を展開するなんていうのはどうかしています。心が相当にお強いか、或いはその逆でしょう。心配です。
 それ以上に心配なのはこの後で、誰かがここにコメントをしてくれるかどうかです。だって、あまりに内輪じみてて切ないじゃないですか。悲しいじゃないですか。変名でコメントしようかしらん。「鬼頭オパーリン」名義で。
わたくしは見ておりますよ。お二人を。
草葉の陰から見ておりますよ。
  • スコラリ(チャタレイ)
  • 2008/04/24 6:39 PM
山本清風さん>
あまりに内輪な上、しかもまずいことには、この一連、実話として受け入れられてしまうこと、多々の様相です。基本的に、ブログなんですから、書いてあること何一つとして、真実ではありません。虚構の私を、受け止めていただければ幸いです。と、途中から言葉をぶつける相手がすり替わっておりますが、勘弁してください。僕は今、禁煙をしているのです。

  • 本人
  • 2008/04/29 11:24 PM
スコラリさん>
見守って頂き、何よりです。こちら依然としてぐつぐつですが、聞けばゲームプランナーとして天地を開拓してゆくそうですね。画期的な未来を、築いて下さい。北の大地に、でっかい足跡残して下さい、田中義剛みたいに。
  • 本人
  • 2008/04/29 11:29 PM
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