<< 漢の一日 | main | 床に落ちた食い物と別れた彼女には未練を残すな >>

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  • 2015.10.23 Friday
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ちょこぱい

 金はないが自炊を嫌うその男は、今日も仕事が終わると家路の傍ら弁当を購入するためスーパーへ立ち寄った。


 二十三時まで営業しているこの店は、二十一時三十分になると弁当、総菜の値引きが始まる。二十二時を超えると全品が半額になるので、つとめて二十二時きっかりに自動ドアを開けるよう心がけてはいるもの、男の職場は不規則を常とするために、閉店に間に合わない日も少なくない。


 ただ、だからといって節約のため自炊をするかと言えば決してそんなことはなく、隣りのコンビニで値段もカロリーも最高峰の弁当を選ぶのである。のみならず、そうして遅い帰宅となった日にかぎって、忙殺され余暇らしい余暇のひとつも味わえなかった一日へのせめてもの慰めと、近くの酒場へ足を運ぶのであった。


 このような有様であるから、男の懐は慢性的に冷え込んでいた。一見すると羨ましい程にばか分厚い財布だが、それは札束の如くして弁当のレシートがみっちりと蓄えられているためである。困窮にあえぐ男の月末は、本屋へ楽器屋へと所持品を売却するために奔走を繰り返すのが常であり、そんな姿をいやというほど見せつけられた友人の幾らかは、男に対してこう言うのであった。


「飯くらい自分で作れよ、ちびでぶはげ」


 
 このように後天性と先天性両方の不具合をいっぺんに糾弾されるたび、男は口籠るばかりか却って声を荒げ、日々生野菜をいちから調理する手間と所要時間がこの弁当には詰まっているのだから、そう思えば六百円にしろ法外な値段とは思えない、酒だってそう強くはないのだから飲む量も自ずと限られているし、何より酩酊にでもならなければこんな現実など、到底受け入れられたものではないのだ、それと見た目は何だって良い、そう言い放った。


 説得力もなければ合理性にも欠ける男の弁明だが、正当性を備えていそうな箇所と言えば、金ではなくて時間の浪費がおそろしく勿体ないというその一節だろうか。ただでさえ日々の労働による疲労の困憊を嘆いているにもかかわらず、その期に及んで食事の支度などといっては、頭も身体も余暇の一切を受け入れることが出来ないよという嘆き、現代人の底流にある悩みとも呼べよう。


 では帰宅後の男がどのような余暇を送っているのかといえば、読書或いはニコニコ動画の一辺倒であり、果たしてそれが有益であるかどうかは本人のみぞ知るところではあるが、男にとり余暇などというのはそもそも自己の充填作業に他ならず、日中において失われた自我を呼び戻す運動であり、同時に一切を忘却して自己満足に没入すべき瞬間であり、つまり人生。明日へのモチベーションという名の持続可能な奴隷制への自発的加担を意味するそれとは一線を画しているのだという。よもや仕事外で得た知識が忌み嫌う過剰労働下において役立ったとして、それもまんざらではないといった顔をする人の余暇とは、根本的に包含する価値基準が異なり、両者の認識のずれと言ったら、ジェンダー間にも劣らぬ埋めがたい溝がある、独り泣き崩れる男は、そうしてデリバリーヘルスの女の子に甘えるのが常であった。
 

 それにね、男は右の乳房を頬張りながら言った。仕事に余暇を還元するのではなく、余暇に仕事を還元するのが人生の本筋ではないだろうか、現代の構造はねじれてはいないだろうか、と。というのもだね、今度は左の乳房にむしゃぶりつくと、目線をこちらに遣りながらチュウチュウと音を立て、得心した表情で続けた。がんじがらめに束縛されて、年功序列にものも言えず、そうした仕事の世界に、どうして生の価値を見いだすことが出来よう。いずれかはその制度に助けられるかも分からない身ではあるものの、もう嫌なんです、と。そうは言ってもだね、そう言い男は布団に仰向けの体勢で寝そべると、下着を履いたままの女性を顔面に騎乗させ、モゴモゴした口調で、君のアソコは鉄の匂いがするねと微笑み、男前の表情で次のように極めつけた。


「仕事と余暇は、決して断絶していない。何故なら共に、自分の人生だから。その証拠にほら」


 そう言うと男は、ブログをアップする前に、今しがたしたためた文章に目を通した。するとそこには、抗い切れない仕事の爪痕が、生理中の如き夥しい鮮血を伴いつつも痛々しく刻み付けられているのであった。
 

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  • 2015.10.23 Friday
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コメント
こないだはコメントありがとう。
勝手にブックマークしちゃった。

てゆうかどんだけ赤裸々だよ。
そんな猫木さんに夢中です。ちうちう。
>SEP〜さん

そんなこと言ったって、ちうちうしてくれないじゃなつか。と、もちろん仕事中です。
これは、端的に意思を表示するためのメタ手法なので、あらゆる面で男=僕ではないこと、分かってください。貴方は美人なのだから、きっと分かってくれると思うんです。

暖かくなる前におでんでも食いましょう、もちろんワリカンです。
  • 本人
  • 2008/02/15 7:37 PM
情景が目に浮かぶ。
  • きいよ
  • 2008/02/15 7:48 PM
きいよさん>
いつぞやはたいへんな量の唐揚げを一緒に食べてもらい、ありがとうございます。皆さんが帰りそうな雰囲気を出している中で濃厚な食物を注文してしまうあたり、若気の至り、気のまわらぬ僕でございます。

情景が浮かぶというのは僕にとり最高の褒め言葉のわけで、その様子がたとい女の子に甘える姿であるにせよ、風情のあることでございます。後づけですが、空には満月でも浮かんでいた設定にしておいてください。

また機会あらば是非、お酒を交わしましょう。その際にはきいよさんのかねてからの望み通り、ガチホモ変態写真を持参します。それでは、失礼します。

  • 本人
  • 2008/02/16 6:33 AM
最後の場面が頭に浮かんでしまいました。
普段不足気味の鉄分を補給できて良かったじゃないですか。
デリヘルを呼んで腹も満たすのはなかなかできない芸当ですよ
  • 染吉
  • 2008/02/18 11:20 AM
染め吉さん>

そうなんですがしかし問題はデリヘルなど呼んじゃいないってことです。なので今後の願望として描いたまででございます。もとより僕は、血の日はあまり好かんのです。
  • 本人
  • 2008/02/18 9:39 PM
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