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  • 2015.10.23 Friday
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他に譲り難し!

 骨休めに箱根に来ています、そう携帯を弄ると彼女は、
 「骨を沈めないようにね」
 即座にこう返してきた。今日も私を囲む友人に隙はなく、彼女にかんして言えば『好き』もない。


 晩飯まで時間を持て余していた。まず地下の娯楽室にて卓球に興じ、ついで碁盤に碁石でオセロをやった。いちいち石を置き換えるこの遊びは時間潰しに最適で、温泉に汗を落とした頃には晩飯時となっていた。 前の卓にずらり並ぶ男女比半々、十七人の大集団は大学サークルの縁らしかった。私が娯楽室でオセロに悩んでいた際に、どどどと押し寄せてきてはピンポン飛ばし、ネットにかかれば「えーやだ」、ラリーが止まれば「つまんない」、転がる箸もいとをかしといった調子で碁石を弾いてケラケラ笑っていた女子集団、ウンカの如く娯楽室あらゆるを食い潰していったあの女子集団、は、果たしてここにいた。男女で温泉、男の期待値を高めてやまない旅情の姫達。部屋に戻れば格付けから勝手な恋愛妄想まで、あらゆる話題の源泉を連れの女に求める男衆に反して、同行者など意に介さず美容や世間を話の種に夜を明かすことを私は知っているが……。言葉遣いや立ち居振る舞いから察するに彼らはみな同学年、美女ほど男から遠くに席をとっていた。会話は男女で見事に分裂、関係性はさして胸ときめくようなものではないらしい。私はどうせなら互いを言葉の残り香で牽制し合うような、もう少し酸っぱい男女を眺めたかったけれども、非日常を求めた旅の風景としては、女のいるだけ悪くない。


 なるほどニューガンダムは伊達じゃないが私の眼鏡は伊達である。飯を食うには甚だ邪魔で、外してみたところ、
「そういえば◯◯、眼鏡フェチって言ってたよねー!」
「そー、眼鏡の男に弱いんだぁ」


 強いて選べばこの娘しかいないと踏んでいた坂下千里子似が言葉の主であったから、急いで再び眼鏡をかけると蕎麦湯を飲み干すまで外すことなく、それでも何が起こるわけでもなく、ふてくされつつ部屋へ戻った。 箱根の夜は情緒こそ趣深いけれども光に乏しく娯楽に貧しく、湯煙たちのぼるところ色町ありとの私の考は肩透かしを食らう格好となった。もちろん血眼になればどこかには発見できようし、スーパーコンパニオンを呼べば随分なことを楽しめることもわかっている。ただ、台風に吹かれた今宵の箱根は、水かさの増した川の、ごうごうと流れるばかりが音楽の、不安に包まれた空間で、雨に打たれた路面や石垣、街灯を受けて黒光りするさまは妖しく、性病にかかりそうな気がした。


 コンビニで購入した角瓶のウイスキーを懐に、私は宿へ戻った。そうしてあまりにすることがないので、橋本真也や武藤敬司の入場をiPhoneで眺めつつ同行者と昔話に寝そべり煙草をくゆらせていると、日々に滞留した垢を落とした安堵もあろう、彼は瞬く間に寝てしまった。そうして私は、ごうごうと音の聴こえるこの部屋で、なにするでもなく日記を更新している。 二十二歳時分の私だったら、彼女達に男の同行しているしていないにかかわらず、まず一番男縁のなさそうな女性に話しかけることで、あの集団の牙城を崩す作業にかかっていただろう。八卦の陣にも急所あり、そこを皮切りに最終的には千里子似へと辿り着くような奸計を企んだことだろう。女は盗むに限ると当時の私は言っている。人の女を寝取るこそ最善と断言している。谷崎的な悪徳が身魂を震わせたのもひとえにそうした萌芽を宿していたからであろうと思われるほどに、無軌道にして放埓極まりない人間だった。


 自らの変化に人は結構無自覚で、というのは、用あって私は六年前のブログ記事をはじめから順に読んでいるが、毎晩記事を三つ書いていた馬力にも脅かされれば、内容にも度肝抜かれた。量産ゆえ文質の稚拙は否めないがそれはさておき、人として言っちゃいけないことばかり書いていて、感心しきりなのです。無礼で、世に敵を作るを恐れず、実名で、顔を晒して、直情的に書き殴っている。ただ、非常に純粋にして苛烈な表現欲をもまた、それら文章には感じる。悪意ではなく真意で紡がれているがため、気違いのような様相を呈している一方に、真面目さがある。読んでいるうち、こいつは俺の言いたいことを全部言ってくれている、誰だ? ああ、私だった、そのように完璧に引き込まれた。時は自己をも客体にしてしまう。そうして過去の自らを眺めて私は、率直に申してその爆発力に感心した。 ですから当時のブログを畳むという突飛な行動の前にいちいち保存するという地味な作業をやり遂げた当時の私は、とても聡明だった。何せ一年で記事が千を超えている。生き急ぐかのように主題をとっかえひっかえしながら己が思想をぶちまけている。全てのコピペは、するも難儀なことだったろう、とはいえ自らのことなのでよく覚えている。誰も褒めてくれないのなら、これは是が非でも自ら褒めるほかない。初期衝動がびかびかに光っているあれら文章は、誰が読まずともまず、私が読みたい。 この箱根を一つ、忙殺からの解放の節目としたい。

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